2.5話「君の夢を覚えている」


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名前はいつも笑っていた。
親友の胡蝶カナエといる時も、全然言うことを聞こうとしない不死川実弥といる時も。

誰に対しても平等だった。


「義勇くん、義勇くん」
「…」
「はい、これお土産」

名前は何かと俺に与えてくる。
甘いものがそんなに好きではない俺に対して草餅を食べさせようとしてくるのは何故なのか。

「別に義勇くんだけにあげてるわけじゃないよ?煉獄さんと宇髄さんにも買ってきたんだから、遠慮しないで」
「なぜ、俺だけ下の名前で呼ぶんだ」

いつも気になっていた。
名前は出会ったときは「冨岡さん」だったはずなのにいつの間にか「義勇くん」呼びになっていた。

「だって、将来結婚するかもしれないでしょ?」
「は?」

彼女はきょとんとして、とんでもない発言を平気でする。

「だって私、義勇くんのこと凄く凄く好きなの。前から言ってるから分かってると思うけど」
「…」
「だから結婚するかもしれないでしょ?」
「……」
「冨岡さんって呼んでたら、いつか私も冨岡になるかもしれないのにおかしいでしょ?今から予行練習してるの」

にっこり笑った名前はそう言っていた。
馬鹿なことをよくも平気で言えるものだ、と俺はいつも呆れていた。

だが名前に惹かれてもいた。
恥ずかしくて、自分も馬鹿のようで、言えずにいた。




名前が鬼に殺される前日。
たまたま俺は彼女とお茶をした。
もちろん名前の方から強引に誘ってきた。

「私ね、生まれ変わったら義勇くんより年下になりたいの」
「…年下?」
「そう。私って義勇くんの3歳年上でしょ?やっぱり女の子は年下の方がいいかなって思って」

そんなことはない。
名前が年上でも年下でも関係ない。
ただ、名前が名前らしくいてくれたらそれでいいと思っていた。

「だからね、私の夢なの」
「夢…」
「平和な来世では義勇くんより年下の可愛い女の子になって、今度こそ結婚するの。それが今の私の夢」


名前は「今度こそ」と言っていた。
今思えばあれは、自分の死を感じ取っていたのかもしれない。
あの時はただ聞き流していたのだ。
いつもの戯言だと。

あの時、気づいていれば…。
いや、気づきようがなかったかもしれない。
それでも俺はずっと後悔している。



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