2話「朝の彼女」

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冨岡義勇が目が覚めたのは朝だった。
昨日帰ってきたのは果たしていつだったのか。
俺はどのくらい寝たのだろうか。
頭を巡らせるがすぐにやめて布団を抜け出す。


春先の朝は少し寒い。
着ていた隊服を脱いで着物に着替えた。

台所で水を飲もうとすると外がなにやら騒がしいのに気がついた。
そっと覗くとまた隣の女性が見える。
そして知らない男も。

うるさいのは男の方のようだ。
酒を飲んで酔っているのか、やたら大きい声で何かを言っている。
呂律が回っていないから何を言っているのかさっぱり分からない。

彼女は少し困ったように笑っていた。
そして「もういい加減に帰ってくれませんか?」という発言。


思わず大きい音をたてて扉を開き、外に出た。
ガラッという音に驚いたのか彼女も男も飛び跳ねてこちらを向く。


「じゃあ……俺はこれで」

酔った男は気まずそうにふらふらとその場から立ち去った。
男が見えなくなってようやく彼女の口が開く。

「お、おはようございます」
「ああ」

彼女はこちらをチラリと見て挨拶してきた。

「邪魔をしたか」
「いえ!そんな!むしろありがとうございました。いくら言っても帰ってくれなかったので」
「…そうか」

男との関係に何か困っているようだ。
さすがに鈍感で天然と呼ばれている冨岡でも分かる。

こんなご時世に若い女の一人暮らしなど危険すぎる。
変な輩に狙われて当然だろう。
彼女は冨岡がこの家に住み着いて数年経って現れた。

引っ越してきた時に挨拶に来たが名前ももらった菓子も覚えていない。

ボーッと1人考察している冨岡に戸惑っているらしい彼女が「あの…」と声をかけてきた。


「鬼殺隊の方、ですよね?」
「!」
「すみません…あの、誰にも言いませんから」
「なぜ知っている」

一気に警戒心が強くなる。
冨岡の睨みに怯えたように彼女は泣きそうになった。

「私、隣町の藤の花の家紋の家に勤めているんです」
「……なるほど」

まさかこんな近くに関係者がいたとは。
警戒心を解くとそれを彼女も分かったのか安堵したように小さくため息をついた。

「いつも服を見て……それで気付いてたんです」
「そうか」
「あの、話しかけられて迷惑ですか?」
「……いや」

ぱぁと花が咲くように、彼女は笑顔になった。




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