第三十六話

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杏寿郎くんに見られた。そう思うと何故かとてつもない罪悪感に駆られた。
今までにこにことお喋りしていた隊士は大慌てで平伏した。

「申し訳ございません炎柱!苗字さんを連れ回してしまいました!自分はここで失礼したします!!苗字さん、こんな所までお付き合いいただいて…本当にありがとうございました!」
「あ、全然…」

怯えたように杏寿郎くんを見上げ、何度も頭を下げる隊士。やはり一般の隊士からしたら杏寿郎くんはかなり恐ろしい存在なのかもしれない。

「いや、かまわない。彼女からたくさんの事を吸収して、更に強くなってくれ!期待しているぞ」
「ああありがとうございます!!」

爽やかに笑いかける杏寿郎くんに「ああ、彼は立派な炎柱なんだ」と実感した。
槇寿郎さんとそういう所が少し違う。槇寿郎さんは優しくもあり厳しくもある人だった。目の前の杏寿郎くんは、厳しい態度をとっていないのにも関わらず、その出で立ちや雰囲気で周りを感服させる。
それは彼に確かな実力があるからこそだろう。


男性隊士が足早に去って、私は必然的に杏寿郎くんと二人で先ほど来た道を引き返す事になった。
なんだか気まずい。
落ち葉を踏む時にカサカサと音がするのと、たまに聞こえる鳥の囀り。それだけが辺りに響く。

いつも二人の時は何を話していた?
こんなに重い空気ではなかったのは確かだ。
そうだ、謝らなくてはいけない。きっと彼は心配して迎えに来てくれたんだ。


「杏寿郎くん。ごめんなさい。おしゃべりに夢中になってて…。そろそろ引き返そうかなって何度か思ったんだけど、話の終わらせ方とか、分からなくて…」

しどろもどろになりながら言い訳する。いや、言い訳がしたいんじゃない。ただ謝りたかったのに、つい事情について釈明してしまう。

ふぅ、と少しだけ大きな呼吸をして、少し前を歩いていた杏寿郎くんがちらりと私を見た。

「いや。俺の方こそ話の邪魔をしてしまった。申し訳ない」
「そんな!杏寿郎くんが謝る事ない!…心配してくれたんでしょ?ごめんね。ありがとう」

慌てて両手を大袈裟に振ると杏寿郎くんはクスリと笑った。

「せっかくの焼き芋が冷えてしまっているぞ。早く帰ろう。千寿郎も待ってる」
「うん…!」

隣に並べば、もう先ほどの重い空気は無くなっていた。いつも通り、彼の隣は心地良い。
私の大好きな人。
私の大好きな香り。

やっぱり一緒にこうして歩くのは、杏寿郎くんが良い。


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