第二十四話

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「名前さん、頭を上げてください」
「そんな!………はい」

今や自分よりも位が上になった杏寿郎くんは、心なしか今までと違った貫禄がある。槇寿郎さんとはまた少し違っている雰囲気が、私を焦らせる。
久しぶりに会ったせいなのだろうか。
彼の魅力いっぱいの姿に頭がくらくらして、今にも倒れてしまいそうだった。


「一番最初に貴女に知らせたかった」
「!」
「予想していたより過激ではあったが、喜んでもらえて嬉しく思います」
「ご、ごめん…なさい」
「いや。謝らないでください。俺が嬉しかったのだから謝る必要はないでしょう」

杏寿郎くんは穏やかに私を宥めた。

「名前さん」
「はい」

真剣な眼差しで彼は私を見つめた。

「炎柱である俺を、側で支えてくれないだろうか。共にまた戦ってほしい。俺は貴女が側にいてくれたら、それほど心強いものはない」
「……わ、私でいいんですか」
「もちろんです。ずっと、ずっと昔から俺の気持ちは変わりません」

まただ。
前にもこんなことがあった気がする。
まるで愛の告白のような言葉を杏寿郎くんは簡単に口にするから恐ろしい。私がどんな気持ちか、彼には分からないだろう。
こんな台詞を、違う意味で言われたらどれだけ幸せだろうか。彼を愛おしいと思うようになってから考えること。
もし、彼と夫婦になれたら…。
夫を支える妻という立場で、彼の側にいることが出来たら…。

そんな邪念は大変良くない。うぬぼれてはいけない。

杏寿郎くんはいつまで経っても私のことを先輩として尊敬してくれているようだ。遂に階級を追い越され、怪我ばかりする私を見ていて、よく失望しないものだ。


「後悔しても私、知りませんからね」
「ははは!後悔するはずありません」
「…」

本当だろうか?
もはや後悔させて「それ見たことか」と言ってやりたいくらいだ。嬉しそうに笑う彼は、好きすぎて憎らしい。


「そういえば、蜜璃ちゃんはどうしたんですか?今後も継子になるんでしょうか?」
「いや!彼女は新たな呼吸を生み出しました」
「え?!」
「だから甘露寺は俺の継子にはなりません」
「そ、そうなんですか?残念」

さすが蜜璃ちゃんだ。まさか新たな呼吸を生み出すなんて、予想以上の実力に感心する。


腕を組んでうんうん頷く私をじっと見て、「名前さんと二人きりの時間が増えて嬉しい」と杏寿郎くんがぼそりと呟いたが、聞こえないふりをした。
また私が勘違いしてしまうじゃないか。


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