第八話

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「名前はね、とても弱い子なんだ。
それは悪いことではないよ。でも、名前は弱い子だから、一人では戦えないんだよ」

お館様が仰っていた言葉を思い返す。

「名前は立派な隊士だ。たくさんの鬼を殺している。でもね、それは炎柱の槇寿郎が居たからでもある」
「人を支えること、それが名前にとって力になる。支える人を失うと、途端に名前は自分を見失ってしまう。だから彼女は人の上に立つということが苦手なんだ」
「今の名前には支える人間がいない。槇寿郎を待ってはいるけれど、君も分かると思うが状況が芳しくない。
実は今、名前は怪我をして蝶屋敷にいる。支える人を失ったまま鬼に挑んだから、実力を出せなかったんだね。このままだと名前が死んでしまう」

「名前の支える人間を、名前の前に立って引っ張ってくれる人間を、杏寿郎、君に勤めて欲しいんだよ」


一字一句忘れずに覚えている。
父が言っていた言葉も、お館様が言っていた言葉も、全て同じだ。名前はとても心が弱くて、一人だと何も出来なくなってしまう。
そんなに過剰に?言い過ぎじゃないだろうか。

だがたしかに、共に戦った際は名前にとっての支える人間がいなかった。しかし俺が彼女に援護を頼んだことによって、彼女の支える人間が誕生したことになる。

うーん、と首を傾げながら歩いていると蝶屋敷が見えてきた。
そこに名前はいる。
大変な怪我をして入院中だから、見舞いに行って欲しいと最後にお館様は仰った。
それとこの話を伝えて欲しいと。

俺の口から言っても良いのだろうか。
名前は年下で、階級も下の俺にそんなことを言われてショックを受けたりしないのだろうか。

悶々と考えていても仕方がない。
そうだ、お館様からのお願いだ。
俺が果たさなければいけないのだ。



「名前さん!!」
「きょ、杏寿郎くん!?」

個室で一人ぼんやりと空を眺めていた名前。
俺の訪問にいたく驚いたようで、一瞬びくりと飛び跳ねた。

腕も頭も包帯がぐるぐる巻きだ。それに頬にはガーゼが貼られている。布団で見えないが脚もきっと無傷ではないだろう。

「ど、どうしたんですか?」
「お話があって来ました!今、お手すきですか」
「もちろん。ここにいる間はずっとお手すきですよ」

名前はクスクス笑った。
笑う時に口元を隠す仕草が女性らしい。


「俺が父の代わりになります。名前さんと共に戦う。俺の側に居て、俺を助けて欲しい」

名前の瞳が一瞬揺れた。
それでもすぐにいつもの表情に戻って、少し視線を左右に行ったり来たりした後に苦笑いした。

「なんだか、口説かれてるみたいな台詞ですね」
「なっ!…、ち、違います!」
「ごめんごめん、わかってるよ」

名前から敬語が消えた時、昔からこれは素顔を見せてくれている証拠だ。

君を口説くのは俺がもっと立派な男になってからだ。内心そう付け足した。



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