第七話

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任務が終わった後、鎹鴉の要がふわりと肩に降り立った。

「オ館様ガ、呼ンデル」
「俺をか?」

父ではなく?俺を?

周りにいた他の隊士もざわつく。救助した一般人だけが喋る要に驚き慌てふためいていた。

「早ク!今カラ向カウ!」
「分かった」

何事だろうか。だが見当はついている。
父の事だろう。
倒れてから少々回復して動き回れるようになったにも関わらず、炎柱としての仕事を全くしていない。
名前も迎えに来てすぐ諦めて帰っていく。


俺も名前も父の担当していた地区を任されてから忙しく、なかなか会えて居なかった。
炎柱である父の担当地区は広い。途中でたまたま会うこともない。

父があの日、言っていた事を思い出す。
「あいつは一人では何も出来ない奴だ」
名前は大丈夫だろうか…。


産屋敷邸に到着すると俺しか居なかった。他の者の姿はない。もしかしたら名前も呼ばれているのかと思ったが、どうやらそう言う訳ではないらしい。

ご息女に案内され、客間に通される。
何もない部屋だ。
お館様が来るのを部屋の真ん中でしばらく待っていると、ゆっくりとした足音が近づいてきた。
お館様だ。


「久しぶりだね杏寿郎」

覚えていてくださった!
前に会ったのはかなり前の筈であるにも関わらず、お館様は優しく微笑んだ。
姿勢を正して正座をすると、ご息女の手を借りて俺の正面にゆるりと座る。


「突然呼び出してすまなかったね」
「いいえ!ちょうど任務を終えたところでした!」
「そうだったのか。怪我はないかい?」
「はい!」
「良い返事だね」

お館様の声は不思議だ。
今まで緊張していたはずなのに、なぜか徐々に肩の荷が降りるようだった。

「実は君に頼みたい事があるんだ」
「はい!何でしょうか」
「次から、名前と共に戦って欲しいんだ」
「は、…」
「部下になる訳ではないよ。共闘、と言うのが一番それらしい言葉だろうか」

俺の予想は外れ、考えもしなかった事を話しているお館様に耳を疑った。

「理由を聞いてもよろしいでしょうか」
「そうだね。うん。君は一度、名前と共に戦ってくれた事があったな?」
「はい」
「その時、名前はどうだった?」
「どう、と言いますと…」
「少し不安がっていなかったかい?」

そう言えば。
あの坂に出る鬼を共に退治した時、名前は最初とても怯えているように見えた。しかし直ぐに気を取り直していたし、動きもかなり早かった。
さすが乙の隊士であると感動したのを覚えている。
ただ、あの最初の怯えだけは未だに謎だし、きっとお館様が今ほど話したのはそれと関係しているのだろう。

「たしかに、名前、は最初何かに怯えているような、不安を抱いているようでした。しかしそれはほんのいっときの出来事だったと思います」
「そうか。…その時杏寿郎は、もしかして自分が前に出てくれたんじゃないかな?そして、名前に援護を頼んだ」
「…はい」

お館様は何か摩訶不思議なお力を持った人なのだろうか?
なぜそれを知っているのだろう。


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