第四話

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「任務には、私が一人で行ってきます」

父の診察が終わり、3人がしんとした部屋で俯いている時だった。名前が震える声でつぶやいた。

そうだった。
名前は父である炎柱の任務に共に赴くためにここへ来たのだ。
だが生憎炎柱は意識を失っている。
医者も帰ってしまった。


「名前さん、先程から顔が真っ青だ。たった一人で、これから任務に行けるのですか」
「…だ、大丈夫です。きっと。なんとかします」

あまりに痛々しい姿に我慢ならなかった。

「俺が一緒に行きます」
「え、でも、杏寿郎くん、今日は休暇じゃ…」
「休暇だからこそ、俺の好きにしていいでしょう!名前さんの任務に着いて行きます。これは俺の意思で決めたことです。だから大丈夫です!」

胸を張ると、名前さんは目をぱちくりさせて俺を見上げた。

「大丈夫じゃないです…!炎柱様に怒られてしまいます!」
「いや、本当は父が行くはずだった任務。息子である俺が責任を取っても問題ないはずです」
「……わかりました」

それから押しに押して、名前さんは少し躊躇いつつもなんとか承諾してくれた。


千寿郎に見送られ、屋敷を出た。
隊服と日輪刀を身につけて名前の隣に立つのは初めてかもしれない。
そして最近、彼女よりも自分がだいぶ大きくなったことを実感した。
名前も並んで歩いて気がついたのだろう。
俺を物珍しそうに見上げた。

「いつのまにか、越されてしまいましたね」
「はは、そうですね。名前さんの頭がよく見える」
「ええっ」

恥ずかしそうに名前は頭頂部を両手で隠した。
思わず吹き出す。

「見られて困るものでもないでしょう!」
「……禿げてません?」
「ははは!まさか!名前さんの髪はとても綺麗です」
「あ、ありがとう、ございます…」

ぽっと頬が赤くなり、今度は顔を両手で隠す仕草をする。こうして見ると名前は本当にどこにでもいる少女のようだ。
自分より五つも年上とは到底思えない。
可愛らしい人。


「最近この坂道で人がよく行方不明になってるらしいんです。事前に調査してもらったんですけど、微かに鬼が居た痕跡があるらしくて」
「なるほど!とりあえず、歩いてみましょう」
「そうですね」

名前は先程とは違って顔色も良い。
薄暗い林の中も怖がっている様子は無かった。
一体何に怯えていたのだろうか、そう思索していると突然木々が揺れだした。
明らかに風ではない。
鬼の仕業だろう。


「っ、きょ、杏寿郎くん、私の後ろに隠れていてください」
「名前さん!」

忘れていたが彼女の階級は乙、かなりの強者だろう。
だが少し困惑しているようだったから、すぐさま後ろにまわって辺りを見回す。
木々の揺れる音が激しくなる。
名前と背中を合わせて周囲に注意を払う。


突然、闇夜に金切声が響き渡る。
大きな体をした人間、いや、鬼が物凄い速さで距離を縮めてきた。


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