48 先生と私A

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突然、同僚の煉獄に真剣な面持ちで「飲みに行こう」と言われた宇髄天元は困惑しつつも了承した。

いつも飲む賑やかな居酒屋ではなく、少し高めの洒落た居酒屋だったし、何より個室を煉獄が予約していたことに驚く。
和風のその部屋は掘り炬燵になっている。
なんとなく落ち着く雰囲気の場所なのに、煉獄は先程からそわそわしているようだった。


2人席に着いて、お通しのところてんを食べている最中にこっそり煉獄を盗み見ると、なんだかよそよそしい。
これはおもしろい展開になりそうだと、宇髄はにやりと笑う。


「どうしたんだよ煉獄ぅ。久しぶりにおまえから誘ってきたと思ったら。派手な話があんだろ?言ってみろよ」

宇髄がそう促すと、煉獄は眼をパチクリさせた。
そして苦笑いする。
お手拭きを用もないのにいじいじと触り、そして意を決したように宇髄に顔を向けた。

「やはり宇髄には敵わないな。そうだ、実は君に重大な話がある」
「おっ、なんだよ。気になるな」
「結婚しようと思っているんだが…」
「はぁ!?!!」

ガチャン!と大きな音を立て、宇髄は立ち上がった。
結婚など、今まで恋人がいたなど全く煉獄から聞いたことがなかったからだ。

ただ、何年か前に学生時代から付き合っていた彼女と別れたと言うのは聞いていた。それから煉獄には恋人がいないと勝手に思っていたが、そうではなかったようである。

現に目の前の煉獄は珍しく恥ずかしそうに伏し目がちだ。


「おま、は?結婚…?突然すぎじゃねえか?」
「6年交際した」
「ろっ!?!いつからだよ!!」
「まあそこは別にいつでも良いだろう」
「誰だよ!どんな女だよ!気になるだろうが!」
「そのことなんだが」

そこでタイミング悪く注文していた料理が次々と運ばれてくる。
唐揚げに刺身。サラダと煉獄が謎のタイミングで頼んだラーメン。

とりあえず、2人は生ビールで乾杯した。


「結婚式はもちろん、相手を職場のみんなに紹介する時が来るだろう」
「そうだな」
「その時、俺は周りから軽蔑されたり、いや、それは構わないんだが、彼女が好奇の眼差しで見られるんじゃないかと…」
「まてまてまて。なんだそりゃ。おまえ、まさか、うちの生徒に手を出したりしてないよな?」
「……」
「……煉獄?」

問われた煉獄は下を向いて俯いた。
と、思った瞬間、彼は崩れるように床に土下座を始める。
とても綺麗な土下座に宇髄は感嘆する。
いや、そんな場合ではない。


「すまない宇髄!!!」
「お、おい!煉獄、まさかの、まさかなのか?」
「まさかのまさかだ!俺を殴ってくれ!」
「いやいやいや!?落ち着けって!」

土下座をやめない煉獄の体を起こそうと全力で肩を持ち上げようとする宇髄。
そんな時、突然襖が開いた。

咄嗟に2人とも顔を上げる。
そこにいた女性を見て、煉獄が叫んだ。

「名前!なんでここにいるんだ!」



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