42 先生の知らない私@

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「苗字、ちょっと放課後時間あるか」
「……え?はい」

突然だった。
煉獄先生が突然呼び止めたのだ。

家庭科室へ友達と移動している時に、廊下ですれ違い様に。
先生は前から現れて、私を見るなり顔色を変えた。
そして私の肩を掴んだのだ。

どうしたんだろう。
首を傾げた。
そんな私の目をじっと見て、先生は「進路のことだ」と言う。
それで私は全てを悟った。



放課後、教員室に行くと煉獄先生はすぐに立ち上がり「着いて来なさい」と言って何やら鍵を取り出した。
向かったのは相談室。
ふた部屋あるうちのひと部屋。
鍵はそこのだった。

普段は鍵で開かないようになっているらしい。
こんな部屋に来たことがなかったから知らなかった。
というか、なぜこんな部屋なんだろう。


放送室に隣接しているこの部屋は、確か防音室と聞いたことがある。
何年も前はカップルがここでこっそりセックスをするのに使っていたと噂で聞いた。
あの噂は本当だったのだろうか。
だから今は普段施錠されているのかも。


先生は先に私を入るように促して、扉に掛けてある札を「使用中」に切り替えた。

「先生、どうしたの?」

部屋の真ん中には机と椅子が用意されているのに、先生は座らない。
カーテンを閉めたのに、窓の方を向いたままで私を見ない。


「…今日、悲鳴嶼先生から聞いたぞ」
「なに?」
「君の進路についてだ」
「うん」
「県外の大学に進学するつもりなのか」
「今のところ」
「ずっと俺に嘘をついていたのは何故だ。なぜ、俺には地元の大学へ進学するんだと言っていた。大学生になっても、俺の家に遊びに来るんだと、言っていたのは嘘なのか」
「嘘だよ」

先生の伏目がちだった瞳が私を見据えた。
燃えるような綺麗な琥珀色。
キラキラして見える。
今はちょっと先生が怖いと思った。

嘘をついていたこと。
いつかバレると思っていた。
でも、こんなに先生が怒るなんて思ってなかった。

先生は嘘も大嫌いらしい。


「何故嘘をついた」

先生は突然私の両肩を強く掴んだ。
痛い。
こんなにも間近で、キスできそうなほどの近さで。
眉間の皺が濃い。


「……もう、俺の元へは来ないつもりなのか」
「そうだよ」

私のことを怒った顔で見つめていた先生。
なのに一瞬で、変わってしまった。
ショックを受けたような、悲しそうな顔に。

なんでそんな顔するの?
なんで、そんな顔で私を見るの?




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