ラブホテル

※現パロ




シャワーの音と女の鼻歌が聞こえて目が覚めた。
見慣れない派手な模様の天井と、カラオケ店のような独特な部屋の匂い。
大きなダブルベッド。

どこだここは。

慌てて飛び起きると、頭に針で刺されたように鋭い痛みが走った。
そして自分は裸だ。
昨日、何があったのか思い出せない。
思い出そうと必死に頭を使えば使うほど、頭痛が酷くなる。

ここはラブホテル。きっと、いや絶対にそうだ。
相手は今バスルームにいるとわかっているのに、思わず自分の隣を見た。
艶やかなシーツを手で撫でれば、人がさっきまで寝ていたようであたたかい。
そして赤いシミが複数あることに気がついてギョッとする。
思わずシミの付いている部分に鼻を寄せて嗅いでみたが血ではない。
よくよく見ればこれは口紅だ。

俺は誰と寝た?
まさか、彼女か……?


その時、バスルームの扉が開く音がした。
じっとそちらを見つめていると、予想に反して全く知らない女性が現れた。
髪は黒かったし、短かった。
眼は猫の様に丸いが少し釣り上がっていて、どこかのアイドルグループにいそうなほど可愛らしい。

「……君は、誰だ」
「え?苗字名前」
「…?」
「覚えてないの?」

名前と名乗る女性はまだ濡れた髪のまま、悪戯な眼をして俺と距離を詰めてきた。
下着姿にも関わらずベッドにあぐらをかいて座る彼女。
咄嗟に視線を逸らした。


「昨日、あなたさ、大好きだった彼女のメンヘラ加減にうんざりして別れたんだけど、やっぱり忘れられなくて次の日その子に連絡取ったらもう別の男が出来ててムカつくし寂しいって泣いてたよ」
「…」
「会いたいって。もう一度彼女とやりなおしたいって言って泣いてたの。かわいそうなくらい」
「…どこで」
「宇髄くんのホームパーティー」
「…ああ」

宇髄のホームパーティー。
そういえばそうだ。
別れたばかりで落ち込んでいた俺を見かねた宇髄が誘ってくれたパーティー。
いつもは断るが、今回だけは寂しさを紛らわせるために参加した。

「君もそこにいたのか」
「そう。それであなたと2人で飲んで、宇髄くんの家から解散してからまた2人で飲み直して、ここに来た」
「…セックスしたのか」
「したよ。それも忘れたの?」
「……すまん」
「なんで謝るの?」

目の前の名前は面白そうに笑った。
あはは、と本当に面白そうに笑うものだから、自分の口角もつられて上がる。


「忘れたんならもう一回しようよ」
「な、おい」
「いいよ。私は。あなた、すごく上手かったし」
「…」

彼女は簡単に俺をベッドに押し倒す。
そして自らブラジャーを外した。
綺麗な胸だったからつい見惚れた。

「慰めてあげる」
「……いい」
「でも、もう大きいよ?」
「…」

自分の性器は正直だった。
名前はゆっくりとそれを上下に動かす。
頭の痛みもあったし、なによりも気持ちが良くて抵抗もせずされるがままだった。

いい香りがした。
彼女の香りなのか、香水でも柔軟剤でもない。

ちらりと名前の顔を見ると、寂しそうな瞳をしていた。
咄嗟に何か思い出した気がする。
昨日の夜のことだ。

あの時、彼女も泣いていた。



ホテルを出る時、俺たちは連絡先を交換した。
なんとなく。
名前はもうあの寂しそうな瞳を見せはしなかったが、帰り際に「ありがとう」と言った。

登録された彼女の電話番号とメッセージアプリのID。
また会えるのだろうか。
分からない。
だが、また会える気がした。

俺とは反対方向へ歩き出した彼女の背中を気づかれない様に、見えなくなるまで見送った。




prev / back / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -