-47 愛心

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名前と一緒にいるとつい自分らしくなく、甘えたり悪戯をしてみたりしてしまう。
いや、これが本来の自分なのか。
そんな俺のことを名前は困った様に笑いながら受け入れてくれる。

母上とはまた違う、初めて感じる感覚だった。
名前といると何故かとても安心して、鬼の存在など忘れてしまいそうになる。



「先に寝てますね。おやすみなさい」

名前はいつもより早めに、一人ですぅっと自室へ行ってしまった。
最初の頃など、俺が寝るまでは起きていようと必死だったのに。

それに今日の名前はおかしい。
本人は表に出さないようにと努めているが、人の感情の機敏に敏感な俺には分かってしまう。
怒っているような、悲しんでいるような。なんとも言い難い。

甘露寺と2人でぜんざいを作って持ってきた時は少しだけいつも通りの名前に戻っていた。
なのに甘露寺が帰ってしまってから俺に対してだけ、その感情を醸し出す。


「千寿郎、名前は何かあったのか」
「姉上ですか?」
「俺が甘露寺と屋敷に来る前に、何か、名前が怒るようなことがあったか?」
「いえ、特には…。いつも通りでしたよ?」
「では俺が何かしてしまったのか…」
「え?」

今日は相手をしてくれる名前はいない。
久しぶりに兄弟2人でお茶を飲んで語り合う。
千寿郎なら何か分かるかと思ったが、何も知らないようできょとんと俺を見上げる。

「…兄上」
「なんだ」
「姉上は、蜜璃さんと兄上の仲を妬いているんだと思いますよ」
「……妬いている?」

思ってもみなかった言葉を反芻する。
あの名前が?妬いている?

「そうなのか?」
「俺はそう思います」
「なるほど。ありがとう千寿郎!悪いが俺は先に寝る!」
「はい。おやすみなさい」

いつも通りふんわりと笑う千寿郎に伝える感謝の気持ちは言葉では足りず、ぎゅっと抱きしめた。



「名前、入るぞ」

名前は先に寝ると言っていたが、襖の前に立てば彼女がまだ寝ていないことが分かった。
返事はないが気にせず入る。
布団の中で頭まですっぽりと布団をかぶっている名前。

「…起きているんだろう」
「……ごめんなさい、今夜はちょっと疲れてしまっているので、」
「そうじゃない。話したい」
「…」

ゆっくりと起き上がり、俺を見上げる名前は少し怯えている。
そんな顔をしないでくれ。
怒られるのを恐れているような不安げな顔が、彼女をいっそう幼くして見せている。

上半身を起き上がらせた名前の正面に座る。

「率直に聞く。君は甘露寺に妬いたのか?」

そう聞いた瞬間、名前の顔がふにゃりと歪んで顔が真っ赤になった。



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