15話「最後の見送り」

.


名前が夜になると冨岡の家に泊まりに来る日が続いた。
今日で10日目である。

彼女は夕方、遅くても日付の変わる1時間ほど前には帰ってきて夕食を作ってくれる。
そして冨岡、名前の順で風呂に入り別々の部屋で寝る。
そんな当たり障りのない生活に冨岡もなんとなく慣れてきてしまった。


「名前、今から任務に行く」
「えっ、こんな時間にですか?気をつけてくださいね」
「ああ」

今日のようにこれから夕食と言う時に鴉に呼ばれれば、名前は握り飯を作って渡してくれた。
いつも具材は違っていて、彼女の気配りやこだわりが見て取れた。


「帰りは早くて3日後、ぐらいだ」
「そうなんですね…じゃあ私、そろそろ自宅に戻ろうかな…」

自分がいない時こそ、屋敷で隠れていて欲しい。
そう思ったが無理に引き止めるのも悪い。

「あの男は最近どうだ」
「全く姿を現していないと思います」
「そうか…」

なら自宅に帰っても大丈夫だろうか。

錠もすでに新しいものに変えた。
護身用に練習用の木刀でも渡しておこうかと冨岡は悩んだが名前があまりにも「大丈夫ですよ!」と笑うのでやめておいた。


「何かあったら包丁で戦え」
「そんなこと起きませんよ。冨岡さんが撃退してくれたじゃないですか」
「しかし…」
「さすがにこれからも冨岡さんに迷惑をかけるわけにはいきません…。異性と同じ屋根の下で夜を共に過ごすのは気疲れしますでしょう…」

図星だったので冨岡は黙った。

「今までありがとうございました」
「…ああ」
「またうちの宿に来た時は何か冨岡さんの料理だけちょっと豪華にしておきますね」
「…」
「いってらっしゃい」
「……いってくる」


自分の屋敷で名前に見送られるのがこれで最後になるのかと思うと寂しく感じた。
自分らしくない、と冨岡は空を仰ぎ考えた。


最初は姉に似ているように感じていた。
だがそれは見た目や雰囲気のせいではないことに一緒に生活して気づいたのだ。

彼女を想うこの気持ちは………

あえてその先のことは考えないように、冨岡は何も考えずに走り出した。

また帰ってくる時には、最初のような日常が待っているはずだ。
隣人。
ただそれだけの名前だ。




prev / back / next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -