27. The approaching day

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次に義勇の屋敷に行った頃には、もう炭治郎君の姿はなかった。
代わりに忙しそうに屋敷の中を動き回る黒服の人たちが目につく。

「義勇、炭治郎君は?」
「…他の柱のところで修行中だ」
「そうなんだ。あの黒い人たちは?」
「…柱稽古の準備をしている隠だ」
「かくし?なにそれ」

まあいいや、といつも通りに薬の入った鞄を広げる。
先程やってきたお客さんから頂いたお菓子を入れていたのを忘れていた。
ちょうど2枚ある大きなせんべい。
義勇に1枚渡すと何も聞かずに素直にそれを食べる。
なんだか可愛い。


「最近、体調はどう?」
「万全だ」
「そうだったんだ。なら、来なくて良かったかな?」
「いや。来て欲しかった」
「…そう?」

もう日が傾いているため、今夜も泊まるつもりだ。
最近はもう精神安定剤よりも私との行為を目的としているような気がして少しバツが悪い。
でももはやそれはお互い様のような気がする。


なんだか今日の義勇は本当に今までよりも表情が晴れ晴れしている。
自信を持っている、ような。
炭治郎君と何かあったのだろうか。
しかし、そこは私が入り込んでよい領域ではないだろう。
日々鬼殺隊として彼が成長しているのだ。

思えば、私と義勇が出会ってから何年経つだろう。
あんなに小さくて可愛かった義勇が、こんなにも男前で頼り甲斐のある青年に成長するなんて。
もし錆兎が生きていて、2人並んで街を歩いていたら女たちは色めき立つだろう。

いつか義勇も妻を娶るのだろうか。
そういえば、鬼殺隊の人たちはみんな屋敷をいただくが家族はどうするんだろう。
前に来た時にも複数の食器や寝具があった。
もしかして、お見合いとかさせられるのかな。
勝手に想像しておいて胸が苦しくなり、慌てて首を振る。


「義勇は結婚しないの?」
「…は」
「き、気になって…」

縁側に座ってぼぅと自分の鴉を眺めていた義勇が目をくりくりさせてこちらを向く。
聞いてから後悔したがもう遅い。

「……分からない」
「そ、そうだよね」
「名前は……」
「え?」
「名前はどうなんだ。おまえも、もう良い年だろう」
「そ、うだね…。私も分からないよ」

気まずい。
今まで何度も体を重ねて来た相手と話す内容ではなかった。
大体、本来女性は結婚するまで処女を貫き通すもの。
私はもう処女ではない。
私なんかを貰ってくれる男がどこにいるだ。

それよりも…

隣で、大きなせんべいを少しずつ食べている義勇を見つめる。
私は義勇が好き。
あなた以外、考えられない。
いつかこの気持ちを伝えたい。

でも、明日が来るか分からないような鬼狩りの人間にとって、こんな気持ちは迷惑かもしれない。
今はこの関係を崩さず、ただ義勇の隣に居たい。




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