-37 冬隣

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杏寿郎さんはまめに手紙を送ってよこした。
本当に他愛もないことや、またに読んでいて恥ずかしくなるような私に対する激しい想いが綴られていた。
私もそれに応えるようにたくさん手紙を送った。

そしてあっという間に季節は過ぎて、とうとう冬目前。
こう日の沈んだ時間が長く、寒さが本格化してくるとやはり不安は募る。

天候の悪い日にはどうも調子が出ない。
お医者様には小さい頃から血圧が他の人よりも低いと言われてきた。

それが関係しているから、血圧を上げるためにも良く食べるように言われている。
杏寿郎さんまではいかないが、雨の日には朝ごはんはたくさん食べるように心がけてきた。

あぁ、またあの銀座で食べたハイカラな料理をお腹いっぱい食べたい…。


なんて思っていた矢先のことだった。
朝早く帰ってきた杏寿郎さんがまた一緒に銀座に行かないかと誘ってくれたのだ。
なんでも買いたいものがあるらしい。

「行きます!行きたいです!」
「なんだ、珍しく乗り気だな」
「でも、任務は大丈夫なのですか?」
「ああ。実は不甲斐ない事に怪我をしてしまった。それがある程度治るまで、暫しの休息だ!」

なんでも、子どもたちを鬼から庇って自分が攻撃を受けてしまったらしい。
利き手ではない腕の怪我ということもあって、少し回復したらまた任務に向かうと言う。
長い休みとは行かないが、私と共に時間を過ごしてくれることを嬉しく思った。


杏寿郎さんも私も衣替えしたばかりのよそ行きの着物に着替え、今回は時間もないのでタクシーに乗って向かった。
もちろん車に乗る、ましてやタクシーに乗るなど人生初である。
そんな高価なもの使えません!と言おうとしたが、別に自分のために用意されたわけではないので黙って乗ることにした。



「杏寿郎さんが買いたいものって何ですか?」
「む、それより先に食事しないか。俺は腹が減った!」
「そうしましょうか」

顔には出さないがそのお言葉を待っていた。
またあの自分ではなかなか作れない味の料理を食べられるのだ!
何にしようか、あぁ、でも杏寿郎さんが洋食屋を選ぶとは限らない。

「名前は何が食べたい」
「…杏寿郎さんは?」
「俺は任務で色んな方面に行き、色んなものが食べれるから良いんだ!君は普段なかなか外食できないんだから、せっかくだ!食べたいものを選んでくれ!」
「えっと…」

私に色々なお店を指さし「あそこは鰻がうまい」「あっちはハイカラなデザートが豊富らしい」と色々助言してくれる。
しかし内心、私はもう決まっていた。

「あの、前に一緒に行った洋食屋さんでも良いですか?」
「ああ!もちろん!」

杏寿郎さんは嬉しそうに笑って私の手を握り、歩き出した。



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