-30 初夏

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煉獄家に戻るとすぐに杏寿郎さんは医者から完治を告げられて、その日のうちに任務へ向かってしまった。
私たちの帰りを待っていた千寿郎君は、兄がすぐに発ってしまって少し寂しそうだ。

「千寿郎君、予定より帰りが遅くなってしまってごめんなさい」
「俺は大丈夫です!お二人がご無事でなによりです」

きゅっと寄る眉毛が可愛らしい。
途中で買ったお土産のお菓子を渡すと「一緒に食べましょう!」と、早速小走りで台所へ向かってしまった。


今日は天気が良いからみんなの布団を干そう。
庭に植えられている木々が少々乱雑に成長してしまっている。
植木屋さんも呼ばないといけない。

もう心に蟠りがない状態だと、やっと自分らしい自分が戻ってきた気がする。
さて、これから旦那様が帰るまで家をしっかりお守りしなければならない。
綺麗なよそ行きの着物も脱ぎ捨てて、動きやすい着慣れた服装になる。
動き出そうとしたところでお茶とお菓子をお盆に置いた千寿郎君が現れた。

「姉上!天気もいいですし、縁側で食べませんか?」
「そうしましょうか」

まずは腹ごしらえにしよう。
優しい甘さの水羊羹は暑くなってきたこの季節にも食べやすい。
こちらは昨日も雨が降っていないのだろうか、少し空気が乾燥している。

「姉上がもし帰ってこなかったらどうしようかと思いました」
「そんなわけないじゃないですか」
「そうですよね…!でもやっぱり、考えてしまいました。姉上が煉獄家に愛想を尽かしてしまうんじゃないかと…」
「千寿郎君。私の帰る家はここです。絶対に戻ってきますよ」
「…はい!」
「これからみなさんのお布団を干そうと思うんです。手伝っていただけますか?」
「もちろんです!」



水羊羹は食べ終えて早速仕事に取り掛かる。
お義父様の部屋へ向かい、いつも返事が来るはずないと分かりつつも「よろしいでしょうか?」と聞いてから襖を開ける。
変わらず布団に寝転び、酒を飲んでいる。

「お義父様、布団を干しますから起きてください」
「…明日でいいだろう」
「今日、今するんですっ」
「なっ」

腹に掛けられていた布団を剥ぎ取るとお義父様はギョッとして体を起き上がらせた。

「お天道様の元に干した布団はいい香りになりますよ。さあ!」
「…勝手にしろ!」

ついにお義父様はしっかりと立ち上がり、部屋を出て行った。
またお酒を買いに行くのかもしれない。
でも布団を手に入れたことは成果だ。

いつも仕舞われている杏寿郎さんの布団も押し入れから取り出す。
彼の香りがほのかに感じられてどきりとした。
次に帰られた時には、一緒に…。


「姉上!持つの手伝いますよ…って、どうかしました?」
「な、なんでもありません」



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