-27 萌芽

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1日を終えてやっと布団に潜り込んだのは日付が変わって1時間ほど経ってからだった。
隣で同じように布団に寝転ぶ杏寿郎さんを意識する余裕もないほど疲れていた。
姉も今は隣の部屋で眠りにつく頃だろう。


今日あった事が走馬灯のように思い浮かぶ。
いくら杏寿郎さんが小宮山さんを私の男友達だと思っていたとしても、あの対応は普通の人にはできないと思う。
彼は本当に心が広くて、どんな人とでも仲良くなれるんだろう。

会ったことはないが、煉獄家出身の自分の先祖もきっと杏寿郎さんのような人だったに違いない。
私の祖父もそう言えばとても優しくて人に好かれていた。
どうして父だけがあんな風に育ってしまったんだろう。


そして小宮山さん。
これで本当に彼とは決別だ。
彼が最後に杏寿郎さんを見て、ほっと安心して微笑んでいたのを思い出す。
彼も杏寿郎さんに負けないくらい良い人だった。
私は彼の恋仲になれて幸せだった。

また寂しさで涙が出そうになる。
今泣いたらきっと隣の杏寿郎さんを困らせてしまう。
でも、彼にちょっとだけでも甘えたかった。


「杏寿郎さん、起きてますか…?」
「ああ。起きてる。眠れないのか?」
「……手を、握っても良いですか?」
「…もちろんだ」

今日は月も出ていないから真っ暗で杏寿郎さんの顔はよく見えない。
言ってから迷惑だっただろうか?と不安になってしまった。
それでももう後戻りはできない。

彼の布団へそっと手を伸ばすと、優しく大きな手に包まれた。
胸の辺りがきゅんと苦しくなる。
そして鼓動が早まる。
体全体から聞こえるかのように心音がうるさい。
それでもしばらくすると彼の手のあたたかさで自然と気持ちが落ち着いてきた。

「…とってもあたたかいです」
「ああ」
「…杏寿郎さん」
「なんだ?」
「ありがとうございます」
「…どうした?」
「いいえ。杏寿郎さんが私にしてくださる色んなことに対して、心の底から感謝をしています」
「はっはっは。突然だな」

握られた手が熱くなる。
私の手があたたかくなってきたのか。
それとも杏寿郎さんの手の熱が上がったからなのか。


外ではカエルの鳴き声が聞こえて来た。
もしかしたら明日は雨かもしれない。


「名前、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」

そのまま、手を繋いだまま瞳を閉じた。
なぜかふわふわするような、気持ちのいい感覚がしてすぐに眠りについた。





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