-09 玲瓏

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3日振りだろうか。
夫である杏寿郎様が帰ってきた。

柱になるきっかけになった戦いでは大怪我をして帰ってきたのだと千寿郎様が震えながら言っていたのでハラハラしながら待っていたが、今回は無傷のようだ。
私にはよく分からないが、柱はとても凄い人しかなれないのだと教えてもらった。
きっと杏寿郎様は心身共にお強い人なのだろう。


式台で草鞋を脱ぎつつ、杏寿郎様が私に風呂敷包を渡してきた。

「土産だ!たくさんあるからみんなで食べよう」
「まあ、ありがとうございます。ではお茶を淹れますね」
「ああ、頼む!」

台所へ行き、包みを開けると美味しそうな桜餅が本当にたくさん入っていた。
これなら槇寿郎様にもご用意できる。

4人分のお茶を淹れて居間に向かう。
途中、槇寿郎様の部屋の前にもそっと廊下に置いて来た。
いつもお菓子はこうして廊下に置いておけばいつの間にか食べてくれている。
同じ屋敷にいるというのにほとんど会うこともないし、今の私にはどうしようもないのだ。
杏寿郎様や千寿郎様のためにも、私にできることはないだろうかと考える。


「みなさん、お茶の用意ができました」
「ありがとう!」
「すみません、任せてしまって」

3人で桜餅を囲う。
早く食べたくてうきうきしてしまう。
でもやっぱりこういう場面では夫が食べてから妻である自分が食べるべきだろう。
先に手を出して食べるのは良くないはず。

そう思って待てど杏寿郎様は何故か全く桜餅に手をつけようとはしない。
千寿郎様が「いただきます」と言って食べ始める。
ああ、私も食べたい。

「どうした、名前。…桜餅は嫌いだったか?」
「大好きです!」
「ははっ」

思わず大きな声を出してしまった。
杏寿郎様は一瞬目をぱちくりさせたが笑いながら「なら食べろ!」と桜餅の乗った器を私の目の前に突き出した。
ここまでしてもらったら食べない方が失礼だ。

「いただきます」と控えめに口へ運べば、独特の優しい甘さが広がる。
甘味は人を幸せにしてくれる最高の食べ物だと思う。
自然と顔が緩んでしまう。

「杏寿郎様、とっても美味しいです」
「君は本当に幸せそうに食べるんだな」
「あ、し、失礼しました」
「何故謝るんだ!もっといろんな表情を見せてほしい。せっかくこうして一緒の時間を過ごせているのだから」
「…はい」

瑠火様のように良い妻になろうと少し緊張し過ぎていたのかもしれない。
もっと普通でいいのに。
頭では分かっているのに、杏寿郎様を前にするとどうしても緊張してしまう。
あの人とは違って彼には気迫がある。
そして堂々としていて立派だ。
この人に相応しい妻にならなくてはいけないんだと、つい気を張ってしまう。




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