-01 真紅

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「おかえりなさいませ」


珍しく父親に呼ばれ、任務が終わったタイミングで家に帰ってみると、知らない女が出迎えた。
驚き、一瞬固まる。
この女は誰だ?

よもや、家を間違えたのか?

そんなはずはない。
この付近でこれほどまで大きな屋敷は煉獄家しかないのだ。
目の前の女はしゃんとして上がり框にて、綺麗な出立ちで俺をじっと見ている。

「杏寿郎様…槇寿郎様がお呼びです」
「む、ああ…」

にこりともしない女は一歩下がって俺に家に入れと促す。
戸惑いながらも我が家に踏み込む。
そういえば千寿郎はどこへ行ったのだろうか。
辺りをきょろきょろする俺の心情に気がついたのか、後ろから静かについて来ていた女が口を開いた。

「千寿郎様はお買い物に行っております」
「そうか!ありがとう」

そのまま女はついて来るが気にせず父上の部屋へ向かう。
襖を開けて入ると、さすがにそこまでは追って来なかった。
玄関で出迎えた時のようにぴっしりとした綺麗な姿勢で廊下に立ち止まる。
どうしたら良いか分からず、とりあえず自分だけ入って襖を閉じた。


縁側に腰掛ける父上の背中に「ただいま戻りました」と声をかけるが、こちらを向く事はない。
今までもそうだったから気にしない。
じっと父上が話すのを待つ。

「…あいつは苗字名前。おまえの嫁になる」
「、?…どういうことですか」
「遠い親戚の娘だ。詳しくは本人から聞け」
「父上、それはもう決まったことなのですか」
「そうだ」
「…」
「もう話は終わりだ」

そう言われてしまえばこの部屋を出ていくしかない。

結局、父上から話を聞いても彼女のことはさっぱり分からず仕舞いである。
むしろ疑問は増えてしまった。
俺の嫁になる、とは一体どういうことだろうか。
父上が本人から聞けと言うのならそうするとしよう。


襖を開けると女はいなかった。
その代わり、台所の方から千寿郎の声が微かに聞こえる。
そっと近づいて台所を覗いてみると、千寿郎と先ほどの女が何やら竈門の前で話しているらしかった。
2人とも小声でこちらには聞こえない。

「千寿郎!帰ったぞ!」
「わっ!兄上!すみません、気づかなくて…!」

竈門に火をくべていたのだろう。
鼻と頬がほんのり赤くなっている弟がいつものように出迎えてくれた。

「今姉上と一緒に今晩のおかずについて話していたんです。兄上がいるので少し豪華にして、牛鍋なんてどうでしょうか?」
「ははは!美味そうだな!楽しみだ。時に君、少し話したいんだが、良いだろうか?」

千寿郎の隣で米を研いでいた彼女はきょとんとして、けれどもすぐに「はい」と真面目な顔つきになって俺の後について来た。


自室に女性を入れるのは初めてで少し戸惑いはしたが、2人向かい合う形で座る。
彼女も少し緊張している様子だった。

「そう緊張するな!話を聞きたいだけだ」
「話…」
「申し訳ないが、なぜ君がここに来たのか、なんのために来たのか説明してくれないか?」

少し間をおいて、彼女の真紅に輝く小さな唇が動いた。




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