16. I’ve never loved anyone like this

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名前が知らない男と街を歩いているのを見つけたのは胡蝶しのぶと合同任務が終わった帰り道だった。

人混みの中でもすぐに分かった。
いつも持ち運んでいる薬のたくさん入った大きなカバンを持っていたし、何よりも自然と目が名前に行った。

しかし驚いたことに隣には自分の知らない若い男の姿。
思わず立ち止まって凝視していると、隣にいた胡蝶は機嫌が悪そうにして、ついには小言が始まってしまった。
仕方がない。
次に彼女の家に行った時に聞いてみようと諦めかけた時、突然名前がこちらを振り返った。

ぱちりと目が合う。

「義勇…!」

名前は嬉しそうに笑ってこちらに走って来た。
さすがの胡蝶も口を閉じる。
パタパタと小走りで寄ってきた名前の跡を追うように知らない男も近づいてきた。
もやっとした気持ちが胸の辺りに広がる。
自分が嫉妬していることに気づいた。


「久しぶりだね義勇。まさかこんなところで会うなんて」
「…ああ。おまえこそ、こんなところで何をしている」
「あ、こちらの方は贔屓にしてもらってる旅館の息子さんなの。この街にある知り合いの旅館さんを紹介してもらって、今挨拶に行ってきたの」
「…」

無言で男を睨みつけると、そんなのはお構いなしと言わんばかりに笑顔でお辞儀をしてきた。

「はじめまして。私は久留須旅館の久留須大二郎と申します。名前さんの持ってきてくださる薬はどれも良いものばかりですし、なにより彼女の怪我や病気に対する眼識は立派なものですので、せび知り合いの旅館とも取引をしていただきたく」

ペラペラと話す気色の悪い男。
名前は隣で照れて笑っている。
それがどうも許せない。


「ところで義勇、お隣の方は?」

やっと胡蝶の存在に気がついたのか、名前の真っ黒な瞳が揺れたようだった。

「はじめまして。胡蝶しのぶです。冨岡さんとは同じお仕事をさせていただいてます。今も任務終わりで、これからお互いに帰るところなんです」
「あ、はじめまして。苗字名前と申します。私は義勇と昔から馴染みがある、ただの薬屋です…」
「まあ。実は私も薬の調合をしていたりするんですよ。もしかしたら気が合うかもしれませんね」


にっこりと笑う胡蝶。
それに釣られるように名前とにっこり笑う。
女性同士で話している姿を見るのはなんとも思わないが、やはり自分以外の男と笑って話す名前を見るのはどうにも堪え難い。

「じゃあ私たちこれから帰らなきゃ行けないから…」
「ああ、もうじき暗くなるから出来るだけ早く家に帰れ」
「うん。わかってるよ」

あの変な男と一緒に帰らすのは嫌だが、これ以上引き止めると日が沈んでしまう。
遠くから大きく手を振っている名前に小さく手を振り返し、自分は胡蝶とお館様の屋敷へと向かった。




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