-33 お昼休み
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新年1発目の、キメツ学園への納品日。
忙しかったのもあるし、なんとなく煉獄さんに会うのが億劫になっていたせいもあっていつもとは違う時間に向かった。
煉獄さんには会わずに納品を終える頃にはちょうど12時になっていて、これから昼ごはんでも食べて会社に一旦帰ろう、そう思った時。
「あけましておめでとう!」
「っ!」
「苗字さん、あの神社で出会った時ぶりだな。元気だったか?」
なんと倉庫の入り口には会いたくて、会いたくなかった煉獄さんがいつも通りに立っていた。
「煉獄さん…、あけましておめでとうございます。元気でした!」
本当は蜜璃ちゃんとあなたのことで胸がいっぱいになって食事がままならなかったんです。
「時に苗字さん、カレーと蕎麦と定食。この中だったら今は何が食べたい?」
「え?」
うーん、そうだなあ。
食欲湧かないからなあ。
「今の気分は蕎麦ですかね…」
「よし!なら一緒に行こう!」
「はい?」
「む、今日はお弁当を持参していたか?」
「あ、いえ。してないです」
「なら行こうか!」
「ええっ!?」
そのままパニックになって、煉獄さんに言われるがままついて行く。
グラウンドを抜けて住宅街の中に小さな蕎麦屋さんがあった。
とてもいい匂いがしてグゥとお腹が鳴る。
「ははは!ここでいいか?」
「えっ?は、はい!」
「さあ入ろうか!」
引っ張られている訳でもないのに、煉獄さんにそう言われるとついつい後を追ってしまうのは何故だろう。
「ここはとろろ蕎麦が美味いんだ」
「じゃあ、私とろろ蕎麦にします…」
「うむ!」
慣れた様子で店員さんに注文までしてくれる煉獄さん。
椅子に座ってお茶をひとくち飲むと、やっと状況が掴めて来た。
なんてスマートにお誘いしてくれるんだろうこの人は。
まあ、ちょっと強引な気もするけど…。
そして蜜璃ちゃん、ごめんね。
本当にごめんね…。
頭の中は罪悪感でいっぱいなのに、目の前に座る煉獄さんを見るとやっぱり胸が高鳴る。
きゅんと切なくなる胸元をそっと撫でた。
「そういえば苗字さんは甘露寺とどのくらいなんだ?」
「そうですね…1年前に初めて2人でお出かけして、それからすごく仲良くなりました。最初は蜜璃ちゃん以外の、他の美大生の方も含めて数人で出かけたりして…」
でもやっぱりその中でも1番私と仲良くしてくれたのは蜜璃ちゃんだった。
おすすめの画材屋さんを教えてくれた。
私はおすすめの文房具を教えた。
そうやっていつの間にか親友のようになっていた。
蜜璃ちゃんのことを考えて目頭がじわっと熱くなった。