-32 友達と先生
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ちらりと蜜璃ちゃんを横目で見ると、美味しそうにたこ焼きを頬張っていてホッとする。
私も買ったばかりのベビーカステラをひとくち。
さっきまでとってもお腹が減っていたのに全然食べる気になれない。
「そう言えば名前さん、さっき私に何か相談したいことがあるって、言いませんでした?」
「えっ?あ…」
「ごめんなさい、私ったら久しぶりに煉獄先生に会えたものだからつい…」
「いいの!全然!たいしたことじゃなかったから、忘れちゃった…!また思い出したら言うね?」
「ええ。ごめんなさい…」
「謝らないで?ほんとたいしたことじゃないの!きっと!」
しゅんとしてしまった蜜璃ちゃんの口までカステラを持っていけば、少しうろたえたけれど素直にパクっと食べてくれた。
「ん〜!美味しいわ!」
「ね!他にも色々食べよう?」
「はいっ」
嬉しそうに微笑む蜜璃ちゃんは本当に可愛い。
きっと今も昔もたくさんの男の子を虜にしてきたのだろう。
「…ねえ、蜜璃ちゃんは煉獄さんが、好き、なの?」
「え?ええ!大好きです!」
「……そうなんだ!」
彼女の「大好き」という言葉に胸が締め付けられる。
やっぱり、好きな人って煉獄さんなんだ。
まさかこんな事ってあるのかな…。
私、素直に応援できるのかな……
結局、蜜璃ちゃんと煉獄さんの関係については怖くて深く聞けなかった。
でも彼女がキメツ学園にいた頃の話は少しだけ聞くことができた。
その頃から煉獄さんは相変わらず生徒からモテモテで、本気の告白をされることも多かったそう。
バレンタインでもらったチョコレートはちゃんと全部家に持ち帰っていたらしい。
もちろん蜜璃ちゃんもあげたそうだ。
今も片思いということは、彼女は告白はまだしていないのかもしれない。
その日の夜は全然眠れなかった。
大好きな蜜璃ちゃん。
気が合って、趣味も合う。
彼女の恋はずっと応援したいと思っていた。
前にも「食事に誘われてしまった」と不安そうに相談してくれた。
行ってみたら行ってみたで「緊張したけど楽しかった。相手も楽しそうにしてくれた」と泣きながら報告してくれた。
今までなんとなく聞いていたけれど、あれは全て煉獄さんだったということなのか。
なんとなく、私の中での煉獄さんとイメージが少し違うけど。
でもそれは煉獄さんも本気だから、蜜璃ちゃんにしか見せない顔なのかもしれない。
私には見せない、好きな人にしか見せない顔。
そう思うと涙が溢れて止まらなかった。