11. Fateful child
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鱗滝さんの素顔は見たことがないけれど、まだまだ現役?の育手をしている。
いつものように朝、山を登って彼に会いに行く。
大きな薬箱を背負って。
最近は特に子どもがいなかったが、今日は違ったみたいだ。
よく通る少年の声が聞こえる。
自然と足早になる。
「鱗滝さん…こんにちは」
「あっ、今鱗滝さんは別の場所に行ってます」
家の横で刀をぶんぶん振っていた少年がぴょこりと顔を出す。
今まで見た子どもたちの中で1番雰囲気が良かった。
ここに集まるのは鬼のせいでつらい思いをした子たちばかり。
きっとこの子もそうだろう。
でも目の前でにこにこしている彼からは、あまり憎しみや怒りは感じられない。
かと言って病んでるわけでもなさそうだ。
「あの、貴女は…?」
「薬屋です」
「あの罠をくぐり抜けて?!」
「あ、ちゃんと鱗滝さんから道順を教えてもらってるから、大丈夫なんです」
「えっ、そうなんですか?!」
鱗滝さんが不在の時はいつも玄関先で座って待たせてもらっていた。
今日もそうしようと思っていつもの場所に座り込むと、少年は興味深そうに近寄ってきた。
「俺、竈門炭治郎っていいます」
「私は苗字名前です」
「名前さんはよくこちらに来るんですか?」
「はい。薬を運んでいます」
「俺はここに来て1ヶ月くらいです!奥に寝ているのが禰豆子、妹です」
「へえ…」
なんだかよく分からないが明るい子だ。
義勇とは正反対だな、と思って少し笑いそうになった。
ふと、少年の手の甲を見ると切り傷があった。
何か木の枝や葉っぱで切ったようなものだが少し化膿しかけた様子だ。
「手を出してもらっても良いですか?」
「えっ?」
首を傾げつつも彼は素直に手を私の前に差し出す。
カバンからよく効く軟膏を取り出して、適量を炭治郎の傷口に塗った。
「しみますよね。でもこれ、よく効くんです」
「わあ…ありがとうございます!」
なんて素直な良い子なんだろう。
今時珍しいな、と感心する。
その時、突然彼がクンクンと鼻を犬のように動かして私に少し近づいた。
山を登ってきたから汗臭かった?
そんなに嗅ぐ?
「…貴女から、なんだか、冨岡さんの香りがするような………」
「!」
昨日の夜、まさに彼が私の家を訪れたのだ。
そしていつも通りに彼と性行為をした。
混乱と恥ずかしさで、一瞬にしてぶわっと身体が熱くなる。