◎ 一十木音也の場合
最初はちょっとした違和感だった。喉が腫れてる?風邪でもひいたかな?ぐらい。物を飲み込む時痛いしクーラーつけすぎた、と思ったぐらいだった。トキヤにも罵られた。全く貴方と言う人は。…俺はヘッドホンをした。
おかしい。あれから何日も経つのにおさまるどころか悪化している。なまえも心配そうに声を掛けてくれた。ごめんね、俺は大丈夫だよ。
喉が裂けるように痛い。声が出せない。おかしい、おかしい…俺はもう歌えないの?俺の夢は終わりなの?この頃には痛みで発熱。珍しく38度を超えた。トキヤは体温計を見た途端焦って保健室へ行ってきます、と行って走っていった。あーあ。全然授業受けれてないや。なまえは誰とペア組んでるんだろ。マサとかと組めれてればいいけど。それ以外の人だったら嫌だなあ。俺なまえの曲好きだし…。あ、なんかムラってきた。顔思い出しただけじゃん…最低だなあ俺…。頭がぼうっとして俺は眠りについた。
「音也!!起きなさい音也…!!!!」
トキヤの焦ったような声。俺熱あるんだよ、もっと優しくしてよ。まあトキヤだもんね、いつもどおりに決まってるや。
「貴方その"茎"はなんです…!」
何言ってるのトキヤ…茎…?
目の前に差し出された鏡を覗き込む。
「…っ!?!?!?」
思わず息を呑んだ。俺の口から出ている…いや、『生えている』のは紛れもない何かの植物の茎。成長中ですとばかりに生き生きと上を向いているその様に、俺は吐き気をもよおした。
「これは…小さな花が所々咲いているようです。一体何なのですかこれは?」
知らないよ…俺に聞かないでよ。
ふるふると首を横に振ると意思を汲み取ってくれたのかトキヤは寝ていなさい、と言うとまた部屋を出ていった。
―コンコン。
「音也起きてる?ん?鍵開いてる…無用心だなあ」
玄関の方からなまえの声がする。
あ、なんかなまえの声聞いただけなのに興奮してきた。久々だからかな。布団さえ捲られなければ、大丈夫、だよね…?にしてもほんと俺最低だな。これは…
「音也ぁ〜!お見舞い来てやったぞ!ホラ!リンゴ持ってきたリンゴ!」
「……」
「ああ、声が出ないんだっけね。いいよ無理に何か言わなくて。剥くね!大人しく寝ててよ」
ベッドサイドに座りスルスルとリンゴの皮を剥いていくなまえ。すごい皮に途切れがない。なまえ料理上手そう。
クイッと服の裾を摘みこちらに気づかせる。
「ん?」
包丁を置いてこちらを向いたなまえを確認して――今だ。
自分でもよくわからない間になまえが俺の布団に寝転んでいた。髪が扇情的に広がり俺の性欲を掻き立てる。
「おと、や?ちょ、大人しくしなって!馬鹿!この馬鹿!」
じたじたと暴れるなまえの腕を一纏めにして頭の上で固定してしまう。
「やめろっつってんだろ!馬鹿也!!!」
言葉の割には強く反抗しないなまえは熱のある俺に遠慮しているみたいだ。好都合。俺は耳元に顔を寄せる。
「見て、なまえ…。俺喉からこんなの生えてきちゃったんだ。ほら見て?何のかはよくわからないけど茎だよ。植物の茎。ホラ見て」
出ない声を搾り出し掠れた声で伝える。なまえがピクッと身体を揺らしたのがわかった。
そのまま首筋に顔を埋め胸いっぱいに息を吸う。ああ、なまえのにおい。ごめんねなまえ、君はトキヤが好きなのに。
トキヤに見られたらごめんね。
トキヤには渡したくないんだ。
おかしいな、君が欲しくてたまらない
一十木音也は喉から花の咲いた茎が生えてくる病気です。進行すると異常に性欲が強くなります。星の砂が薬になります。 http://shindanmaker.com/339665
なんだこの一十木音也が思春期してるだけの話は(驚愕)
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