◎ 美風藍の場合
「ねえなまえ、口から金平糖が出てくる確率はナンパーセントだと思う?」
唐突に訳のわからない質問をされきょとんと見返すしかできない。
「美風先輩の方がよくご存知だと思いますよ」
本当にそう思ったので返すと、何、キミ馬鹿にしてるの?と返された。そんなつもりではない。
「どうやらボクの喉から金平糖が出てきているようなんだ。気付けば口の中に金平糖があるんだよ」
「はあ…」
イマイチ理解ができない私を一睨みするともういいよ、とどこかへ行ってしまった。
―この時に追いかけておくべきだったのだ。
「うーん、次はBGMのお仕事か。その前にちょっと散歩でも行こうかな…」
ぐぐっと伸びをし携帯をポケットに入れ立ち上がる。まだ寮で暮らしているため施錠はそんなに気をつけていない。悪い癖だ。
ピンポンピンポンピンポン!
ものすごい速さでインターホンが鳴る。はいはーい、とドアを開くと同期の来栖翔が青ざめた顔で立っていた。
「わっ翔くん?どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねーんだ!避難させてくれ!」
半ば強引に部屋に押し入られ施錠される。すぐに携帯を取り出し誰かに電話をかける翔くん。
「あ、もしもし、俺だけど。お前今日は部屋には戻るなよ……あぁ、……………なまえの部屋にいる。お前も今日はこっち泊めさせてもらえ。絶対に見つかるなよ…ああ、じゃあな。仕事頑張れよ」
「あ、あの、翔くん?状況飲み込めないんだけど」
「あ、ごめん…今日は悪いけど那月も泊めてやってくれ。訳はちゃんと話すからさ」
三日ぐらい前かな、藍が急に聞いてきたんだよ、ヒトは食べられるのかって。そりゃ食人家とかいるらしいしな、って俺は言った。那月は美味しいんですかねえ?なんて暢気に言ってた。
じゃあ試してみる?
は?なんて聞き返す暇なかった。藍は俺の指を食おうとしたんだ。本気で。
何すんだよ!?って手を引っ込めたら不思議そうな顔してな。
ショウ、なんで手を引っ込めるの?手出してよ。
って。
その場は上手く切り抜けたけどそれから事あるごとに齧ろうとしてくんだ。
でな、……さっきもう我慢しないから、とか言って…
「そんなことが…」
「お前も気をつけろよ。今の藍は人間を食べることしか考えてねえ。お前が相手でもな。」
多分、と自信なさげに付け足すと黙り込んでしまった。私は沈黙に耐えきれず「ご飯の用意するね」、と立ち去った。
そのあと那月くんがきてからは何事もなく過ごしていた、のだが。
「あ、メイク落としがないや。困ったなー…」
すぐ近くにコンビニがある。もう22時だしドラッグストアはやってないな…
(ちょっと高くなっちゃうけどしょうがない。コンビニ行こ)
「翔くん、メイク落としないからちょっとすぐそこのコンビニ行ってくるね」
「おー。くれぐれも気をつけろよ…ついて行こうか?」
「ううん。目の前だし大丈夫だよ、ありがと」
翔くんたちが危なくないように施錠をし、エレベーターに乗りこんだ、その時。
「つかまえた」
扉が閉じると同時にスルリと乗り込んで来たのは美風先輩だった。両手首を捕まれ壁に押し付けられる。
「せ、先輩っ!?あ、あの…っ」
「どうしたの?…ん?キミ、ショウのにおいがする。そうか、じゃあ聞いてるよね。話は早い」
左手の指をぱくりと咥えられる。
ひゃっ!?と変な声が出たが美風先輩はお構いなしに舐めており口の中で転がされる。
「あう、う…せんぱ…」
「動かないで、」
噛み千切っちゃうかもしれないよ?
妖艶に笑う美風先輩の表情に、ぞわり、恐怖とは違う何かが走った。
美風藍は喉からぽろぽろと金平糖が出てくる病気です。進行すると普段はとても食べないようなものが食べたくなります。星の砂が薬になります。 http://t.co/gv1TDDCJ6O
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