キスをテーマにしたショートストーリー集です。
一つ140字〜200字で構成され(筆が乗ればその先も)、短編や長編に採用されたものや今後使う予定のものもごちゃ混ぜになっています。百個のキスシチュを書くことを目標に、管理人のキスシチュへの飽くなき萌え語りを交えて記載しています。
▼ No.24「無自覚な甘いキス」
2016/01/21 00:21
「仕事の合間のキス。自覚のない甘々なイルミさんで是非!」とのリクエストを頂きましたので、書かせて頂きました!
個人的には甘さがあるんですが、客観的に見たらたぶん、甘さなんてほとんど無いに等しい話なんだろうなーっと思いながらの投下です(笑)
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「予定飛行ルート 41°24'12.2"N 2°10'26.5"Eの地点に巨大積乱雲の発生を確認。爆弾低気圧かと思われます。中心気圧は982hpa、風速32m、危険度N+、左腕への回避ルートを提言致します」
ひと仕事終えて乗り込んだ自家用飛行船でゆっくりとくつろいでいたイルミ=ゾルディックの耳に入ったのは、操縦を任せているスタッフの落ち着きのない声だった。 危険度N+ということはこれは予想外の事象であり、かつ、すぐにでも回避行動を起こすべきであることだと男はすぐに理解したが、自室の丸窓から外を覗いてみても、窓からは満天の星空と、薄黄色の月光に照らされて、まるで灰白色の雲にぽっかりと穴が開いたように黒い飛行船の影が見えるだけで、乱気流を起こすような雲はどこにも見当たらなかった。
イルミの横には、主人の仕事疲れを癒すために、執事のゴトーが手製のガトーショコラと高級茶葉で淹れる香り高い紅茶を用意している。その従順な執事の顔には、いくら予測不能な天候のせいだといえ主人のスケジュールを予定通りのこなさない操縦室付きのスタッフへ、隠しきれない苛立ちがその眉根に刻まれている。
「……イルミ様」
飛行船が通過しようとしているルートは世界的な高さを誇るクリズラー山脈を通るもので、これは予測困難な悪天候が突発的に起こるかわりに目的地まで他の迂回ルートの三分の一の所要時間で行けるというものだった。予定外に入った次の仕事のせいだとも言えなくもないが、これから向かうホンジョウユに夜中の一時までに到着するためには、このまま強行ルートを進まなくてはいけなかった。
「いいよ、ゴトー。オレが行く。」
何のために高給な給料を払ってお前を操縦士として雇っていると思ってるんだ。そう、今にも怒り出しそうな執事を手で制して立ち上がると、イルミは扉を開けて操縦室へと向かう廊下へと歩き出した。
「危険度N+だって?」
幾種類もの計器を前に精悍な顔つきで操縦桿を握っている操縦士の側に、後ろから音も立てずに近寄ると、イルミは女操縦士の肩に手を付きながらその耳元に顔を寄せて問い掛けた。
「イ、イルミ様!!」
耳に突如吹き掛かった吐息に、女操縦士は素っ頓狂な声をあげて身を強張らせる。 ゾルディック家に仕える全ての人間にとって、ゾルディックの人間は、忠誠を誓い敬愛を注ぐ、いわば神のような雲の上の存在であった。
「何?」
憧れの存在が息も掛かるほどの距離で隣に立っている。 イルミとしては、操舵に集中している女操縦士の気を散らしては悪いとの思いで足を忍ばせて近寄ったのだったが、それは女操縦士の理性をパンクさせるくらいの破壊力を持っていた。彼女は操縦桿を握ったまま目を白黒させて固まっている。
「ねえ、聞いてる?」
主人の何度目かの問いかけで、意識を取り戻した彼女は、イルミの息の吹き掛かった耳に手を当てながら、肩を丸めて返答をする。
「ああ、……はい。危険度N+、です。このまま進みますと、あの……一時間四十二分後に爆弾低気圧の勢力圏に突入しま、す。大変な揺れが予測され、最悪な場合、飛行船の操縦機能が制御を失う可能性が恐れがあります。……推奨代替ルートは、」 「だめ。このまま進んで。」 「え……しかし、このままでは……」 「ねえ、聞いてた? オレはこのまま進んで、って言ったの。」 「しかし……」 「ねえ、オレを誰だと思ってんの?」 「…………」 「危険度N+ってことは、本当は飛行自体には問題ないってことでしょ? ただ、乗客の安全が保障できないってだけで。」 「……はい、乱気流に翻弄されるために飛行船は上下左右に大きく揺れ、その飛行船に乗船している方はその揺れに三半規管が狂い、頭痛・眩暈・嘔吐の症状を起こし、また、バランスを崩して転倒した場合、打ち所が悪ければ骨折などを起こす可能性が……。……あの、イルミ様! 私はそんな危険な状況にイルミ様を――」
イルミは、必死の形相で懇願する女操縦士の唇に、幼子に言い聞かせるように人差し指を当て、その黒目がちな瞳で女操縦士を覗き込んだ。トリートメントの行き届いたぬばたまの黒髪が月の光を受けながらさらりと落ちる。
「もう一度聞くよ? あんたは、オレを誰だと思ってんの?」 「……あ、暗殺一家ゾルディック家のご長男、い、イルミ、=ソルディック様、です……」 「あんたは、オレをそんな揺れに負けるような軟弱な人間だと、そう言いたいわけ?」 「め、滅相もございません」
瞬きひとつしないイルミの猫のような瞳と、女操縦士の迷いの残る瞳とが静かに交差する。操舵席に散りばめられている計器類が計測針を左右に動かす中、先に目を反らしたのは女操縦士だった。
「決まり。そのまま進んでね。」
駄々っ子に言い聞かせ終わったような清々しい顔で姿勢を正すイルミは、天然たらしな行動の数々で女操縦士の頬が真っ赤に染まっていることに気づいていない。女操縦士は主人が気づいていないことにホッと胸を撫で下ろし改めて操縦桿を握ったが、次の瞬間に訪れた予想だにしない状況にまた固まってしまった。
「ちゃんと言うこと聞いたから、ご褒美。」
なんと、後ろから顔を寄せたイルミが、女操縦士の右頬に唇を落としたのだった。「チュッ」というリップ音が女操縦士の鼓膜を震わし、唇を付けられた頬が火傷の痕のようにじんわりと痺れ出し、女操縦士は息をするのも忘れてしまった。
「最近、キルが言うこと聞いてくれなくてさー。前はほっぺにチュウしてあげたら凄く喜んでくれたのに。」
なんでも無いことのように呟いて伸びをしながら去って行くイルミを背後で感じながら、女操縦士はしばらくの間その場で固まっていた。数十秒経ち、完全にイルミが自室に戻った頃に、女操縦士はどさりと操縦席に崩れ落ちた。
「……イ、ルミ様……っ――」
手で顔を覆う女操縦士の耳はまるで薔薇が咲いたかのように真っ赤に染まっていた。年頃の娘に、イルミの無自覚な色気は強烈だったのかもしれない。しかし、真っ赤に染まる顔を覆う指の隙間から垣間見えた目には、「主人の期待に応えなくてはいけない」という確固たる決意の炎が揺らいでいた。
大きく息を吸うと、彼女は真剣そのものの瞳でまだ見えぬ突風低気圧のある方向を見据えて、頑強な操縦桿をぎゅっと握ったのであった。
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仕事の合間のキス。自覚のない甘々なイルミさんでしたー! 天然タラシなイルミ、萌え。こんな感じでイルミは熱狂的ファンを日々増産させているのだろうなーと、妄想。
ちなみに、「暗殺の仕事仲間と屋敷に侵入したイルミさんが、ちょっとドジっちゃった夢主に溜め息吐きつつも甘やかしてチューみたいなシチュ」は、「いやいやイルミはそんな足手まといになるような奴は仕事に連れて行かないだろうし、そもそもミスった時点で見限るか殺すかしちゃうよね」ってなキャラ解釈のため却下いたしましたw
身内に優しい(特にキルアに)イルミ、可愛いよなー。たぶん、意志の強そうななかなか引かないところが、ふと弟たちを思い出させたのでは無いかと勝手に予測。脳内では、原作より5歳くらい若い、若イルミ設定でしたw
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▼ No.23「切なげに瞼にする憧憬のキス」
2016/01/17 02:45
ツイッターの四択アンケートで上位となった「切なげに瞼にする憧憬のキス」のSSです。 キャラ指定なし。高3先輩♀×高2後輩♀設定。
※女同士の百合描写があります
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膨れ上がったあなたへの想いが、行く当てもなく胸の中で渦巻いている。
卒業式を目前に控えたある晴れた日曜日、先輩の搭乗時間に合わせて向かった空港のロビーで、私は天井から続く大きなガラス窓の手をつきながら、目下に見える整備途中のジャンボジェット機へと虚ろな視線を向けていた。
視界の隅では部活の同期たちが先輩を取り囲み、そのカリスマ性を以って我が部を全国大会へと引っ張ってくれた先輩に、感謝の意と惜別の念とを涙ながらに伝えている。先輩の、この世の美を全て集めて一つに纏めたような整った顔立ちが、同期たちから受け取ったこぼれ落ちるような花束に悲しげにゆがみ、腰まである絹のようにサラサラとした黒髪がふわりと揺れる。
ただのいち後輩としてあの場にいられたらどんなに喜ばしいことか。そう思いながら、私はあと30分もしないうちに先輩を異国の地へと連れ去ってしまう空飛ぶ鉄くずを、今すぐにでもあの機体が爆発しまいますように、と私はまるで呪うように睨みつけていたが、そんな恐ろしい空想の事件が現実のものとなることはついぞなく、空想の事件よりもおぞましい、想い焦がれた先輩との別れだけが、刻一刻と迫っていた。
「ほぉら、あんた何黄昏てんのよ。あんなにも先輩に可愛がってもらったのに、さよならの一つも言わないで見送るつもりなの!?」 「…………」 「まあまあ、いいじゃない。この子、先輩がロンドンに行っちゃうって聞いてからずっとこんな感じなんだよ。まだショックから抜け出せてないんでしょう?……だってうちらだって……ねぇ?」 「……まあ、確かにあたしも先輩はいつか海外に出て行く人だって思っていたけれど……まさか卒業式にも出ずに行っちゃうとは思っていなかったから、ショックと言えばショックだけど……でも……」
私の近くでかしましく喋り出した部活の同期たちの声でこちらに気づいたのか、別れを惜しむ後輩たちに囲まれていた先輩が顔を上げてこちらを見た。とても優しい――友愛に満ちていた瞳が私を見つけて切なげに陰った。
「『行ってらっしゃい』とは言ってはくれないのね……」
花束を抱えたまま私のいる窓際まで来てくれた先輩は、鈴が転るような可憐な声で悲しげに言った。
本来、三年生は夏の全国大会を境に部活を引退するものだったが、将来この道を進んでゆくと決めていた先輩は、夏以降も頻繁に部活に顔を出して後進の育成に力を注いでいた。その中で最も有望視され熱心に指導を受けていたのは何を隠そう私であり、だからこそ、去年の夏以降、先輩の一番近くで、先輩との時間を――先輩の声を聞き、先輩の眼差しを受け、先輩の温もりを感じ、誰よりも先輩へ想いを注ぎ続けたのは私なのだと、胸を張って言えた。
でも――、誰よりも時間はあったはずなのに、本当の私の気持ちは何も伝えられていなかった。
「先輩……」
私に気を遣ってか、今まで先輩の周りにいた同期たちは少し離れた場所に下がって私に先輩との別れの時間を作ってくれている。
「ごめんね、何も言わなくて……」
先輩の白魚のような細指が、先輩に憧れて伸ばし始めた私の髪へとそっと伸び、するすると流れのに沿って下へと動く。
「あなたに外国行きの話をしたら、決心が鈍ってしまいそうで……」
それくらいあの高校での生活は楽しかったから――。つんと上を向いた形の良い唇が悲しげに言葉を紡ぐ。先輩のその言葉に鼻の奥がツンと痺れる。
ステージの上で輝くあなたを見てあなたに憧れ、部活の扉を叩き、それから二年間、朝も晩も練習に明け暮れ、今日まであなたの側であなただけを見つめていた。 その憧れは胸の内でいつしか別の好意に変わっていたけれど、女の私が女のあなたに対してこんな想いを持つだなんて絶対に許されるはずも認められるはずも受け入れられるはずもなく、私はこの膨れ上がった想いをただただ押し殺して毎日を生きてきた。
あなたを見ているだけで幸せだった。あなたの側であなたと同じ時間を過ごせるだけで胸がいっぱいだった。何度、この半年を繰り返せることになったとしても、私は気持ちを伝えることをしないだろう。
だけど、本当はあなたに触れたかった。あなたの艶やかな髪に指を通して柔らかな頬に触れ、その潤いに満ちた唇にキスを落としたかった。空港のアナウンスが、先輩の搭乗便を告げている。最後の刻が近づいていた。
「せん、ぱい……最後にひとつだけお願いが、あります……」 「なあに?」 「手を……手を、握らせて下さい……」 そう言った私の声は震えていた。 「……いいわよ」
彼女の細指を両手でそっと包み、そろそろと飴細工を触るよりも優しい手つきで彼女の皮膚を撫で、そのまま彼女の指ごと祈りを捧げる修道女のように胸の前で握り締める。 今まで何度も先輩の指に触れることはあったけれど、そのどれもぽんと触れるだけの友愛の触れ合いばかりで、こんなに長い時間先輩の手を握ったのは初めてで、改めて感じた皮膚を介してじんわりと伝わってくる先輩の温もりに、心がシクシクと痛み出す。
愛しています。この世の誰よりもあなたの事を――。
先輩への止めどない想いが込み上げて、鼻の奥がツンと痛み目の前が滲み出す。 伝えたい、この想いを、誰よりも愛しているあなたに、伝えたい……例え、この想いが報われなかったとしても……。そう思いながらも、先輩にもし、拒絶されたら。嫌われたら。軽蔑されたら。……と考えると唇がまるで凍りついたように強張ってしまい、少しも動かすことができなかった。
「せん、ぱい……」
伝えたい言葉の代わりに、先輩の手を胸元でぎゅっと握ったまま、つま先立ちになり、先輩の顔へと顔を寄せる。先輩の長いまつ毛に縁取られた黒目がちの瞳が二度三度と瞬きをする。しかし、私の唇が額に向かったのを感じた先輩は、それが「さようなら」の意味を持つ友愛のキスだと理解し、その長いまつ毛をそっと閉じる。
違うんです、せんぱい。私があなたに伝えたい想いは、そんな額にチュッと唇を落として終わるようなそんな単純な想いではないんです。
『私、この高校に入学して本当に良かった。念願だった全国にも行くことが出来たし、跡を継いでくれる可愛い可愛い後輩に恵まれたし……ね。大好きよ。これからも部のみんなをよろしくね』
あなたは私に『好き』との言葉を贈ってくれましたが、私があなたに感じている『好き』は、あなたが私に感じる『好き』とは、全く違うんです。せんぱい、ごめんなさい、私、あなたのことが好きなんです。大好きなんです。額に唇を落とすくらいでは治らないくらい好きなんです。
女同士の私には先輩の唇へ恋人のようなキスができるはずもなく、かといって、惜別の際にここそこで行われるようま頬や額へキスもしたくなかった。先輩の中に私という存在を刻みたかった。伝えれるはずのないこの気持ちを、欠片でも良いから伝えたかった。
私は、長いまつ毛を伏して目を閉じている先輩の顔を網膜に焼き付けるように見つめると、その愛らしい唇に恋人のように吸い付きたい衝動を抑えて、伏した瞼へとそっと唇を落とした。
唇に、瞼の薄い皮膚の感触と、たじろぐ先輩の眼球の動きとを感じた。まるで永遠のようなその一瞬に、私の青春のすべてが詰まっていた。
「行って、らっしゃい……」
涙ながらに告げた別れの言葉は小刻みに震えていた。私の視界は滲みだした涙で霞んでいて、先輩がどんな顔でいるのか私には分からなかった。
せんぱい、大好きです。この世の何よりも――。愛しています、心から。
何よりも伝えたい言葉を心の中で繰り返しながら、私は花束を抱えて手を大きく振る先輩を瞬きをせずにずっと見つめていた。
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「切なげに瞼にする憧憬のキス」でしたー! 初の百合設定ですが、こういったすれ違い系の百合は好きです。カードキャプターのさくらちゃんと知世ちゃん、的な? ちなみに、すっこんばっこんにならないのなら、薔薇……というか腐も行けます、特にブロマンスと称される友情以上愛情未満の危うい関係とか大好物ですね、実は。
ちなみにこの話、部活で全国行ったって設定ですけど、何の部活かは明確には決めてないです。たぶん、文化部っぽい雰囲気出してるんで、吹奏楽部とか放送部とか演劇部とか、そんな感じ……ちはやふる的なかるた部でも良さそうですね。
ああ、実らない片思いとかの、そんな切ないキスとか大好きです、きゅんきゅんします!
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▼ No.22『唇に毒』
2016/01/14 00:25
キャラ指定なし。お姉さん×思春期男子。xxxHolic、スガシカオ、「19才」
昼下がりの土曜日の、いつもの僕の部屋。散らばったレコードに書きかけの五線譜に、壁に乱暴に立て掛けられたアコースティックギター。いつも通りの変わりばえしない日常の中の、僕の『いつも』には存在するはずのない、あなた。
鼻腔から直接脳髄へと語りかけてくるような蠱惑的な香りを漂わせながら、あなたは僕に近づきキスをする。
ねえ、唇に毒を塗って僕の部屋に来たでしょう?
あなたの息を飲み込んだ喉はじんと熱く痺れ出し、重なった唇は毒に侵されたかのように僕の制御を超えてあなたを貪り始める。
ねえ、どうして僕の部屋に来たの? ねえ、なんで僕なんかにキスをしたの?
聞きたい疑問は宙ぶらりんのまま、より一層強くなる痺れに、僕は何も考えられないまま舌を絡めてあなたを身体を抱き締める。泣きたいような笑いたいような良く分からない感情に顔がくしゃりと歪む。それでも衝動は止まらない。あなたのキスで、もう心も脳も溶けてしまいそうだった。押し倒した衝動でベッドの上でふわりと踊るあなたの美しい黒髪の向こう側で、あなたがにんまりと笑った気がした。
ねえ、本当は僕のことなんかどうでも良いんでしょう?
服を剥いで露わになったあなたの首筋に顔を埋めて息を思い切り吸い込むと、気道から肺、そして手足の一本一本へと、あなたの香りが広がってゆく。その蕩けるような恍惚の香りは僕をさらに駆り立て、僕はまた毒に侵されると分かっていながらも、あなたにキスをするのだ。
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CLAMPのアニメ、xxxHolicの第1期OPがスガシカオの「19才」って曲なんですけど、この曲……と言いますか、曲と歌詞とXXXHOLICの世界観とOP映像とののマッチがぴったりで、凄く好きなんですよねー!! ……ということで、「19才」の曲をイメージソングとして書いたSSです。 でも、侑子さんは四月一日にキスして誑かすようなことは絶対しないので、ここに出てくる僕とあなたは、四月一日と侑子さんとは完全別物な気がします。
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▼ No.21『テレビを見ながらのキス』
2016/01/12 19:12
「女夢主に依存気味のイルミとの甘々なキス」とのリクエストがあって書いた話です。
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モノトーンで統一された落ち着いた部屋の中、一組の男女がリラックスした姿のままソファに腰掛けてテレビへと視線を注いでいる。天井から吊り下げられたシルバーソケットのお洒落な三対のスポットライトが、二人の座るソファやガラスの天板が嵌められたダイニングローテーブルへと暖色の光を注いでいる中、じっとテレビを見ていた男が、突然何かを思い出したかのような顔で、女顔負けの艶やかな黒髪を揺らしながら、ちょこんと膝を揃えて座る隣の女へと声を掛けた。
「ねえ?」 「……ん、何?」
男の強い視線に、女は返事をしながら一瞬だけチラリと顔を動かして男を見るも、直ぐにテレビへと顔を戻して、俳優たちが演じるテレビの中の物語へと意識を向け始める。
「何見てるの?」 「え……何って。ドラマだよ、見たいって言ってたでしょ?だから録画しといたやつをこうやって……」
十数秒の沈黙の後に再び掛けられた声に、女は戸惑いの滲む声で今の状況を改めて説明し始める。しかし、
「違う。オレが言いたいのはそういうことじゃない。」 「え? え?」 「だから。何でそれ見てるのって聞いてるの」
感情の映らない猫目の瞳を近づけて男は問い掛けるも、彼女は男の言葉の意味が分からず、瞳を揺らして狼狽の声をあげることしかできなかった。
「もしかして別の作品が見たかったの?」 「だから違うって。オレは、なんでオレが映ってないのかって聞いてるの。」 「え? じ、自分が映ってるビデオが見たい……の? でも、そんなの……俳優じゃないんだしあるわけ……。あ、もしかして、自分が映ってる昔のホームビデオとか見たいの? 弟君たち可愛いもんね、そっか、ドラマなんかよりそっちの方が断然良いよね!?」
慌てた様子でテレビのリモコンを操作し始める彼女の手首を、男は不機嫌の滲み出た顔でぎゅっと掴んだ。
「い、痛い……」 「ねえ、何度言ったら分かるの? オレは、なんであんたの瞳にオレが映ってないかを聞いてるの。」
突然の言葉に、女は固まったままパチパチと目だけを何度も動かした。
「えっと……。もしかしてだけど。私がずっとテレビを見てたのが……。あなたの顔を見ないでずっといたのが、嫌だった……の?」 「……さっきからそう言ってるじゃん。」
小さな口を尖らせてプイとそっぽを向く男の姿は、いい年をした男のそれとは思えないほど愛らしく、女は胸に湧き上がる今にも抱きつきたい衝動に頬を緩めながら、肩をもじつかせる。
「ふふっ、ふふふふ……んもう、そんな事で拗ねちゃうなんて可愛いなぁ」 「なに? なんで笑うの? それにオレ、拗ねてないから。怒ってるの。」 「そう、そうだよね、ふふっ……怒ってるんだったよね。ごめんね?」
女はソファに膝立ちになると、頬肘をついたままそっぽを向く男の頬を両手で挟んで、猫目の瞳を語り掛けるように覗き込む。
「ほら、分かる? 私の目、ちゃんとあなたを映しているわ」 「…………」 「ほら、ほら……」
ぱちぱちとわざとらしく瞬きをする女の虹彩には、唇を尖らせたままの男の不機嫌な顔だけが映り込んでいた。そこには室内の家具もテレビも、ドラマの俳優たちも映っていない。そのことにやっと納得してから、男は女の腰を抱き寄せて言う。
「オレ、いつも言ってるよね? お前の瞳に映すのはオレだけでいいって。」 「うん、そうだね」 「約束破ったら承知しないから。」 「うん、知ってる」 「オレだけだからね? 他の男は映しちゃダメ……だから。」 「うん、分かってる。私の目はあなたしか映さないよ」 「本当?」 「うん、本当だよ。今も、そしてこれからも。私の目はずっとあなただけを映していくよ」 「……もっと言って。」 「私はずっとあなただけを見ているわ」 「……もっと。」 「私の目は――……んっ」
男は言い掛けた女の口を優しく塞ぐと、そのままソファへと押し倒した。甘い、互い互いを映し合うだけの二人きり時間が、紡がれ始めたのだった。
終
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いやん、すっごく甘い話ができた気がします//////(当社比) いつもでしたら、「まず、この二人の関係はなんだろう?」との脳内ツッコミ&ブレーキが掛かってしまって書くどころか妄想すらできないのですが、リクエストとなるとそんなツッコミはどこのその、指がガサガサ進みます!! リクエスト下さった方、ありがとうございます!!! 甘い話が書きたい熱が、満たされました、本当にありがとうございました!!!
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▼ No.20『西日の中のキス』
2016/01/11 00:21
キャラ指定なし。高校生男女。放課後。
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太陽の沈みかける放課後。部活棟から、吹奏楽部の不揃いな練習音が、風に乗って僕らのクラスまで流れてくる。 センター試験まであと三ヶ月となったこの時期、三年の教室棟に人は少ない。皆、暖房の効いた図書室か、個々人で通っている塾の自習室にいるのだろう。三年のA組の教室には、僕と彼女と、教室を真っ赤に染め上げる西日しか、存在しなかった。
微積分の問題に解き疲れた僕は、問題集から顔を上げて、未だ一心不乱に過去問を解き続ける彼女の横顔を見つめる。真剣な瞳をした彼女の横顔は、西日に照らされてより一層美しく輝いていた。
「ここを抜け出そう。一緒に同じ大学に行くんだ」
そう言いだしたのは僕の方だった。 「高校を卒業したら働いてその給料の全てを家に入れなさい」 ギャンブルに溺れた両親に長いことそう言われ続けていた彼女は、搾取されることに慣れてしまったせいか、長い間この言葉の異常に気づくことができなかった。
いい加減目を覚ませ。どこの世界に自分の子供を風俗に売り飛ばす親がいるんだ。自分をもっと大切にするんだ。
私に未来はないの、と涙を流す彼女をビンタし、抱き締め、何時間もその場で泣いた。男のくせに号泣だなんて今思い返しても恥ずかしいけれど、あの時は、大好きな彼女が卒業後に破滅の道を傷つきながら歩んでいくかと思うと、悲しみと怒りと切なさで胸が今にもはち切れそうで、彼女を抱きしめて泣くことしか僕には出来なかったのだ。
「私にも出来るかな……ここから抜け出せるかな?」
見栄っ張りな彼女の親を黙らせるには、世間的に知名度の高い大学――しかも学費免除の特待生枠に入り込むのは、並大抵の努力ではままならない。でも、彼女ならできる。できるはずなんだ。
僕は彼女を力強く抱きしめながら言った。一緒に頑張ろう、と。
あれから半年。僕の作った専用カリキュラムを貪欲にこなす彼女は、その学力をメキメキと上げ、今ではあと三ヶ月頑張れば荒唐無稽と思われたあの目標まで何とか手が届く、そんなところまできていた。
「ふぅ……」
区切りの良いところまで問題を解き終えたのだろう、彼女は問題集から顔を上げて小さく息を吐いた。彼女の長い黒髪が太陽の光の中でかすかに揺れ、まるで金糸のように煌めいた。
「どうしたの?」
小首を傾げる彼女の細い指を取ってぎゅうっと握り、小さく息を飲む彼女を引き寄せ抱き締めると、持ち主のなくなった黒いシャープペンがカランと落ちて、僕の足元まで転がってきた。吹奏楽部の楽器ごとの練習音が、彼女の鼓動と重なって一つの合奏曲となっている。
「一緒に、頑張ろう……!」
絡めた彼女の白指に誓いの唇を落とし、彼女の黒目の奥にある希望の光をじっと見つめると、彼女が花が綻ぶように微笑んだ。
彼女を守りたい。胸に闘志の炎が湧き上がる。 彼女に本当の春が訪れるのはこれからだ。僕は再度彼女の手をぎゅっと握ると、彼女を守れる真の男となるためにも、また、参考書へと向き合った。
吹奏楽部の合奏音が、僕らの背中を押していた。
終
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ち、がぁーーーう!!!甘い話が書きたかったはずなんだ。確かに私は青春の男女の甘酸っぱいキスシチュを書き始めたはずだったんだ!!なのに、なんだ、この重っくるしい設定は!?!?
ううう………次こそは甘いキスシチュが書きた……い。
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