「お祝いに」
『えっ買い物?なんで…あぁ家が…うんそうだよね、ごめん。…ジェノス着いてってやって。荷物多くなるだろうから。持ってやって。え、俺?…俺はいいよ。…ほら……タイムセールあるし。』
わたしはある程度の買い物を終え、ベンチに座って一息ついた。
そしてわたしが下着を見るという理由で、一時的に自由行動だったジェノスさんとも合流した。
ジェノスさんは別に疲れた様子は全くないけれど、わたしに合わせて隣に腰を下ろしてくれた。
「すみません、ほんとにたくさんの荷物持ってもらっちゃって。」
「先生からのご指示だから気にするな。それにこの程度の重みなど感じない。」
流石サイボーグ、流石ジェノスさんだ。
「それとさっきの時間、引っ越し祝いということでソヨカゼにこれを買ってきた。」
「え!?そんな、気を遣わな…、」
衝撃の発言。
そして手渡されたもの。
小鳥の形をした透明なプラスチック。
中で水がゆらゆらと揺れる。
ご丁寧に首から下げる紐まで付いている。
あれ?これ…お祭りとかの屋台で見たことが…。
「…………水笛?」
「ああ。子どもが吹いていて面白い音がしたから買ってきた。怪人に襲われた時にこれを吹けば、俺や先生が駆けつけるだろう。」
「え…?あ、あぁ…すごい…なる、ほど…はい。」
要らねえ。
ぶっちゃけ、要らねえ。
というか意味がわからねえ。
「ソヨカゼ、試しに吹いてみろ。」
え?
吹けと?
お祭りの時、どこからかケチョケチョ音がしても、既に長じたわたしには一生縁のない物だろうと思っていた。
それを今、ここで吹けと??
結構目の前を人々が行き来しているここで?
おそらくこれを買ったであろう駄菓子屋の近くでもないのに?
…あなたは鬼だ。
「どうした?」
「え?あ、はい…。」
「吹くのが嫌か?」
…おい!なんでそんな顔をするんだ!!
サイボーグのくせに!サイボーグのくせに!
「い、いきます。」
息を吸い、おそるおそる唇を付けてみる。
ケチョケチョケチョケチョケチョケチョ……。
「…。」
「…。」
なんか見られてる。
通行人に見られてる。
ちっちゃい子どもに見られてる。
仲良しカップルにも見られてる。
「ああ。やはりいい音だ!」
ジェノスさんは明るく楽しそうな声を上げた。
まじか。
そしてわたしたちは帰路に着いた。
「ジェノスさん、ドアの前に何かありますね。」
「ああ。なんだ、あの黒く波打った、重量感のありそうな物は…。」
近づいてみると、それは…。
「「昆布?」」
「ドアの外に昆布がたくさん置いてありましたが。」
「ああ、あれは、たまたま…。…えーと、安く手に入ってだな。」
「あ、スープですか!いい匂いしますね。」
「え?うん…まあね…。」
その日の夕飯は、サイタマさん特製、昆布だしのよく効いた美味しいスープだった。
「と、ところで買い物できた?」
「はい!おかげさまで。」
「無事に終了しました。」
「そう…なら、よかった…。」
「ハッ!買い物、同行できず申し訳ありません!」
「え?いいよいいよ…別に…うん。それよりお祝いに昆布いっぱいあるから、2人とも食えよ。」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます、しかし何故昆布…?」
「え?…まあいいじゃんなんでも。」
続く
駄菓子屋に水笛売ってるのかなぁ…
公開:2017/01/04/水
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