後編


「俺はホーリーバイター!毎年クリスマスにシフトを入れられるのが嫌で怪人化した独り身の俺の気持ちが分かるか!!」
「…テメェ、よくも懲りずにシャバに出てきやがったな…。」
「む!貴様は昼間の…!しつこい男だ!」
「しつこいのはテメェだ!!」


何発かぶち込むが、明らかに昼間の手応えがない。

くそ、昼間よりパワーアップしてやがる…。


「町に飾られていたクリスマスツリーを5個も喰らってやった俺様に、かなう奴などいない!!」
「ごちゃごちゃとうるせえぞ!」
「お前、ヒーローなんだろ?ヒーローって、一般市民のために戦ってんだろ?」
「あ゙?だったらなんだってんだ。」
「俺は、結構一般人に支持されているはずだ。」
「…は?」

突然語り出す怪人に、俺は首を傾げる。
怪人は流暢に語り出す。

「近年、独り身でクリスマスを過ごす若者が増えているそうなんだ。俺は幸せに過ごすカップルや家族だけを狙って襲っている。つまり、独りで寂しく過ごす奴らにとっては、スカッとさせてくれるいい怪人なわけだ。わかるか?」
「…。」

めちゃくちゃだ。
そんな理屈が通っていいわけがない。

「世間は楽しいクリスマスイブだぜ?そんな時に怪人退治?お前も独り身なんだろ?だったらわかるはずだ、独りでクリスマスを迎える奴らの気持ちが…あれ?おいなんでバット構え…おい?」



「…ああ、終わった。回収は任せるぜ。あ?…悪ぃが手加減出来なかった。パワーアップしてたんだよ。…ああ。後は頼むぜ。おう。」



携帯電話を閉じてポケットにしまう。
すっかり暗くなってしまった。
早く帰らなくては。





「…ただいま。」
「…おかえり。」


リビングのソファに座ったソヨカゼが振り返る。
正面に回り込むと、その膝に頭を乗せたゼンコが眠っていた。
よく見ると、頬に涙の跡が残っている。

壁の飾りの一部がぐちゃぐちゃになっており、ゼンコが暴れたんだろうなとわかった。

ラップがかけられたテーブルの上の食べ物は少しだけ減っており、待ちきれなかったゼンコが食べたんだろうと推測した。


「その…悪ぃ。」
「しょうがないよ。バッドは悪くない。」

ソヨカゼは悲しそうな顔でゼンコの頭を撫でた。


「お腹空いたでしょ?チンして食べて。」
「ソヨカゼは?食ったのか?」
「んー…まだだけど、」

ソヨカゼは視線を落とす。
膝に頭を乗せたゼンコが気になるのだろう、食べるかどうか悩んでいるようだ。


「…ゼンコ、おーい。」

声をかけてみるが、起きる気配がない。

「部屋連れてくか。」

抱き上げてみるが、すやすやと寝息を立てるだけで、全く起きそうにない。


リビングに戻ると、ソヨカゼが食べ物をレンジで温めていた。


ゼンコは眠ってしまったが、2人だけのクリスマスパーティが始まった。


「プレゼント、直接渡す用のやつも枕元に置いておこうか。」

俺達は、手渡しするプレゼントと、サンタからという体のプレゼントの2つを用意していたのだ。
ソヨカゼの提案に、俺は頷く。


「…怒ってんのか?」
「怒ってないよ。」

ソヨカゼの声は、明らかに元気がなかった。
当たり前といえば当たり前かもしれないが。


なんとなく重い空気で夕飯を食べた。


食事を終え、皿を洗い終わった俺は、食器棚に片付けているソヨカゼを呼ぶ。

「あの、よ。」
「ん?」
「ちょっと待ってろ。」
「え?なに?」

俺は一度自室に行き、またキッチンに戻ってきた。

「ほい。」

「…え。」

そして、綺麗にラッピングされた袋を手渡した。
それは、2人で買い物に行った時、トイレに行くと偽って買いに行ったソヨカゼへのプレゼント。

「え…え!?」

ソヨカゼは軽く混乱していた。

「ゼンコだけじゃなんだからよ。ソヨカゼにも何かねーとって思って、な。」

ソヨカゼはみるみる内に目に涙を溜めた。

「あ!?なんで泣くんだよ!」
「う…だって…、こんな…。」

俺は目の前で泣き出したソヨカゼを抱き寄せた。

「…今日は悪かったな。」
「謝らないで、仕方なかったんだから。」

ソヨカゼはしゃくり上げながら俺を抱きしめた。

「それに…ヒーローやってるバッドも、…好きだから。」

「!?」

い、いま好きって…!
滅多に言わないのに!

今度は俺が混乱する番だった。


「ソヨカゼ…!明日はぜってー早く帰ってくる!そしたら、今度こそ3人でパーティするぞ!だから、また飯頼むな!」
「わかった、約束だよ。」
「おう!」

俺はソヨカゼを思い切り抱きしめた。




「ほら、サンタさん。起こさないように、そっとだよ。」
「わかってる…!」

バッドは、慎重にと思えば思うほどなのか、若干脚を震えさせながらゼンちゃんの部屋に入っていった。

そして、そっと枕元にプレゼントを置いた。

「よしっ!」
「あ、バッド、しー!」
「あっ。」

安心して大きな声を出したバッド。
しかし、ゼンちゃんは目覚めない。

胸をなで下ろすと、忍び足でゼンちゃんの部屋を出た。



「よし!寝るまでゆっくりしよーぜ。」
「そうだね。あ、お菓子買ってあるよ。」




「…ありがと。お兄ちゃん、ソヨカゼちゃん。」


狸寝入りをしていたゼンコが、小さく呟いた。



メリークリスマス。




おまけ。


「…なにこれ。」

ゼンコは、大きな包みを開けて呆然とした。

「おう!それは俺たちからのプレゼントだな。どうだ?護身用のバット!重いだろうから金属じゃねえけどな。」
「こんなの持って歩けないけど。」
「えっ。」

バッドは困惑した。

「ほ、ほらゼンちゃん、そっちも開けてみなよ!」
「う、うん。…あ。」

中からは、女の子らしい髪留め。これはソヨカゼが選んだ物だった。


「か、かわいー!嬉しい!」


喜ぶゼンコに、ソヨカゼの頬も緩む。


「えっへへ…よかった、」
「おい、ソヨカゼ!」

それ以上は言うなと、バッドが制する。
ソヨカゼは慌てて口を押さえた。

2人はにこやかにゼンコを見つめた。



(サンタさんじゃないのに「よかった」がもう既におかしいけど…黙っていてあげよっと。)


とっても大人なゼンコだった。



fin.



公開:2016/12/25/日


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