傷痕


「…ソヨカゼ。」

ソニックがわたしの頬に手を当てて、唐突に、静かに名前を呼ぶ。
何かと思って顔を上げると、行為中とは思えないくらい優しいキスをされた。

ソニックの膝の上に跨って、彼の着ていたTシャツを捲り上げたときだった。

「…ソニック。」
「お前はいつも、俺の服を脱がせる時、そんな顔をする。」
「?」

ソニックは軽く眉を寄せ、訝しげな顔をしている。

「…悲しそうな顔だ。」

後頭部に手を添えて自らに引き寄せ、こつんと額をぶつけたソニック。
目の縁取るまつ毛が、どこか寂しそうに上下する。


服を脱がせる時。つまり、裸を見る時、か。

原因は分かっている。

彼の身体に、無数についた傷痕だ。


以前聞いた時は、鍛練の際についた傷だと言われた。
恐らくそうなのだろうと思う。
多分そればかりではなく、他人につけられた傷もあるのだろう。

この傷が何によってついた傷なのか、ということは大きな問題ではない。
重要なのは、彼の身体が無数の傷に覆われているということなのだ。

どんなに昂っている時でも、傷痕を見ると切なくなる。
彼が、自分とは違う、特殊な人間であるという現実を突きつけられるような気分になる。


わたしはソニックの身体を抱き締めた。

「…つらいよ。」
ポツリとそう零すと、ソニックの身体が小さく反応したのが分かった。


「ソニックの強さを求める気持ちは、わかるよ…でも、…それでも…。」

わたしは、目に熱いものが滲んだのがわかった。
振り絞るように呟く。


「ただ待つ身はつらいよ。」



きっとこれからも多くの傷がつき、消えずに残るものもあるのだろう。
それは彼の職業上仕方のないことだ。

ソニックが強い人間であることは十分承知している。
それでも、彼を上回る存在があることは否めない。

いつか、そんな存在にわたしからソニックを奪われる時が来るのかもしれないということが怖いのだ。


「ソヨカゼ。」

ソニックの声は優しい。
頬を伝う涙を食い止めるように、手が添えられる。

「俺は何よりも、ソヨカゼを護るために強くなる。」
「…ソニック?」
「俺を脅かす存在は…即ちソヨカゼに害が及ぶ可能性のある存在だ。俺はソヨカゼに笑っていて欲しい…だから、」

ソニックは真っ直ぐにわたしの目を見据えた。


「だから俺は強くなるんだ。」

「…ソニック。」


最強最速の忍者…ソニックの言葉は、力強かった。


「これは勲章のようなものだ。ソヨカゼを護るためについた傷…。だから悲しむことは無い。」


「ソニック…わたし、ソニックに会えてよかった…ソニックがわたしを見つけてくれて、本当によかった…!」
「…フン、それは俺も同じだ。ソヨカゼがいなければ、俺は道を踏み外していたかもしれないのだからな…。」


自身を最強最速と認めてから初めて自分を下した敵。
自暴自棄になりかけていたらしいソニックは、偶然わたしと出会った。

惹かれ合うようにわたしたちは結ばれた。



「ソニック、ありがとう。ずっと一緒にいてださい…。」
「ああ、勿論だ。俺はずっとソヨカゼを護る。」



その傷痕ごと、全部愛せるように。
あなたのことを、もっと深く。
もっともっと深く、愛せるように。



fin.


公開:2018/07/30


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