前編

歴史?パロ

此の話:
貴族が世の中を牛耳る時代。
白澤もヒロインも貴族です。
政略結婚の御話。

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「…はぁ!?結婚!?」




縁側でひなたぼっこをしていた白澤は、突然の報せに飛び起きた。
彼の近くで休んでいたペットのウサギが驚き飛び跳ねていく。
それを見送った白澤は、顔をしかめた。


それから、報せを持ってきた家来の桃太郎をキッと睨んだ。
その鋭い眼差しに怯む桃太郎。

いつまでたっても口を開かぬ桃太郎に痺れを切らしたように、言った。



「…で?どーゆーことなの?」



普段よりも低い声に怯えながらも、桃太郎は慌てて言う。


「は、はい!その…奥方様からの命令でして…、政略結婚とのことです」



白澤という青年は、巷ではよく知られている、とある貴族の時期当主である。


同時に、度が過ぎる程の遊び人であることも知られていた。
本人は全く悪びれる様子も見せず、毎夜毎夜、違う女を部屋に連れ込んだり如何わしい店に行ったりしていた。


そんな息子に呆れ果て、その上段々と勢力が衰えてきた我が家の将来のことを心配した彼の母が、彼に政略結婚を押し付けてきたのであった。




「で?相手は?僕なら知ってるかも」

「はい…それが…鬼塚家、なん…です…」


桃太郎の語尾が段々と消えていく。
それもしっかり聞き取った白澤は、顔をしかめた。



「鬼塚って、つまり死乃だよね?」





女遊びで幾人もの女を見て来たため、殆どの女の顔も名前も思い出せない白澤。
しかし、彼女だけはよく覚えている。


鬼塚家当主、鬼塚鬼灯の一人娘、死乃姫。
お互いの幼少期を共に遊んだりして過ごした仲である。

当時は白澤側の家の方が勢力が強かったため、幼いながらにそれを理解していた白澤は、彼女と遊ぶというよりは、彼女と"遊んであげていた"という意識が強かったのだ。


それを、力が衰えはじめてきた白澤の家の方から、政略結婚を願うなど、白澤にとっては屈辱であった。




つまり、


「なんで僕が、あの泣き虫死乃に"結婚してもらわなきゃいけない"んだよ」


明らかに不機嫌そうな顔で愚痴を零す。
桃太郎は、今すぐここから立ち去りたいと顔に書いてあった。
それを見兼ねた白澤は、下がっていいよと言った。




「お香母様には僕から反論するよ」







翌日。



あの後すぐに母のお香に反論をぶつけにいった白澤だったが、あっさりと切り捨てられてしまった。
おまけに、夜遊びもしないようにと咎められてしまった。


白澤は不機嫌の極みである。

それには、母お香がかつて遊女であったことも絡んでいるのだが…それはいいとして。

白澤はさっそく死乃に会いに行く羽目になってしまった。




牛車の籠に揺られながら、むすっとした顔を一寸たりとも変えずに、正座した膝の上に乗ったウサギの背中を撫でていた。



「なんで僕が会いに行かなきゃいけないんだよ…」




しかし、楽しみも少しはあった。

9歳から一度も顔を見ていない幼なじみ。
18歳となっている今、美しくなっているのだろうか。
スタイルはどうだろうか、などと、ハッキリ言って下衆な考えばかりではあるが、望みが全くないよりはマシである。




そんな下衆なことを考えている内に、白澤を乗せた牛車は鬼塚家に到着したようだった。







「白澤様、お久しぶりでございます」


「……」




白澤は言葉を失った。

死乃は美しかった。

今まで見てきた女の中で、ずば抜けて美しかった。



幼い頃から大人の美しい女性にしか興味がなかった白澤は、同い年の、未熟な女の子になんか全く興味が湧かなかった。

少しいじめると涙を零す少女なんかは、白澤にとって"面白い"存在であった。

涙を流しながら自分の後を追いかけてくる死乃から笑いながら逃げるのは、実は幼い頃の楽しみのひとつだった。



「…久しぶりだねー、死乃」


そんな過去のことを頭から追い払った白澤は、ニヤリと笑みを浮かべた。



女性と体を重ねる直前に、彼が見せる笑顔だった。



そんな白澤の心境を知らない死乃は、相変わらず柔らかな笑みを崩さない。



「…こうして、」


死乃の元に歩み寄る白澤は、彼女の声に耳を傾ける。



「白澤様を…見ますと、お変わりはありませんね」

「…そうかな?」

「はい。しかし…時の流れを感じます」

「…!!」


目を軽く伏せながら、静々と語る彼女に、何故か目を奪われた。
ピタ…と、歩を止めた。



「…お元気そうで、何よりです」



死乃は、微笑んだ。




「…あ、失礼しました。今お茶を淹れますね。どうぞ、お座りになってください」

「あ…うん」



白澤は、胡座をかいて座った。


「白澤様」

盆の上に湯気のたつ湯のみを置いて持ってきた死乃が言う。

「…ん?なに?」
「相変わらず、ウサギがご一緒なのですね」


ふふ、と笑う死乃。
膝の上に乗っていたウサギに手を伸ばす。

しかし、白澤は、その細い腕を自分の方へ引っ張った。




「は…白澤…様?」

「死乃…綺麗になったね」


慌てて起き上がる死乃の首筋に顔を寄せ、ペロッとひと舐めしたとき。



「おっおやめください!白澤様!!」


両手で突き飛ばされた。

と言っても、彼女のか弱い腕じゃビクともしないのだが。


白澤は、意地でも行為を続けられた。


しかし、彼女に拒否された、ということが、何故か、何故かショックでたまらなかった。



「……」
「は…白澤様…」


顔が赤い。
息も少し荒い。
冷や汗をかきながら、死乃は言った。




「…私は…白澤様のことが嫌いです……!!」





「……あァ?」





続く

公開:2013/05/07/火

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