水町健悟という男
「ンッハ!やっべー遊園地とか久しぶり!」
「……ねー水町くん」
「んー?」
「あのさー……そーやって人前で脱ぐの、なんなの?…
めっちゃ注目浴びてんだけど」
「……って言われてフラれちった!せっかく遊園地行きたいって言うから行ったのによー」
「……あのね、健悟。それ、普通の人の反応だよ」
「ん……?」
わけがわからない、というように首を傾げる幼なじみに、私は思わずため息がでた。
幼なじみの彼、水町健悟のクセは、上半身裸になること。
超人的な早脱ぎで、気付くと半裸になっているのだ。
健悟は運動神経抜群だし、それだけを見た女子は憧れを抱いてしまうのだろう。
だけど、そんな憧れの彼は脱ぎ魔で、最初こそは「キャッ!もう!」で許せるだろうが、数日後には冷めた目で見るレベルに落ち着く。
それだけ、彼のクセは自然で、かつよくあることなのだから。
ああ、女の子は残念に思うだろうなぁ。
運動神経抜群で顔も割りといい方の男をゲット出来たと思ったら、社会的には白い目で見られるのだから。
今でこそキャーキャー言われてるけど、もう少ししたら落ち着くだろう、この水町フィーバーは(なんだそりゃ)。
なんて考えていたら、健悟が惚けた顔で私の顔を覗き込んできた。
「んじゃあさー、なんで凪ちゃんはヘーキなの?」
「……え?」
「俺が上脱いでも、ビックリしねーし照れたりしねーじゃん?」
「それは……」
彼のクセは、気付いた時にはもう日常茶飯事になっていて、私ですら毎回突っ込むことを諦めている。
そりゃあ、初めて見たときはビックリしただろうよ。
だけど顔も見飽きるほど長い時間を過ごしてきたわけで、今さらキャアキャア言ってもしょうがないだろう。
つまり、そう。
「慣れ、かな」
そうぼやくと、健悟はニカッと笑って見せた。
「あー、だから凪ちゃんと居るのは居心地良いんだな!」
…何よ、その笑顔。
告白されたからって、"普通"の女の子付き合ったりして。
……こっちの気も知らないで。
数日後。
「また遊園地行って、テンション上がって脱いだら別れようって言われたー!」
「……あちゃあー。そう。残念だったね」
「別にそんな好きじゃなかったからいい!」
「じゃあなんで付き合ったの?」
「んーなんか面白そうだったから?」
「……」
悪気は無いのだ。
彼の眩しい笑顔と今までの経験から、なんとなくわかる。
「ンハッ!これでまた凪ちゃんと一緒の登下校だな!」
「……あぁ、また登下校が騒がしくなるね」
そう、これが、水町健悟という男なのだ。
そして、そんな男にこんな想いを抱く私も、私なのだ。
fin.
公開:2016/03/18/金
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