way of roadwork


「おーい一年おせーぞ!」
「「オス!」」


自転車を漕いで帰路についていたら、
健気にも脚で走る男子の集団に追いついてしまった。

運動部か。こんな炎天下をご苦労様だなぁ。
なんか自転車で抜くの申し訳ないな…。

そう思いながらも少しペースを落として近づくと、

「あっ。」
「あ!」

どうも見たことある後ろ姿だな、と思ったら前の席のリエーフだった。


「あっれ、日和ちゃん!」

リエーフは私に気付き、走りながらも振り向いて思いっきり腕を振った。
こんなあっついのに、元気なやつ…。

「お疲れ様。精が出るね〜。」
「おー!俺はエースになる男だからな!」

リエーフは得意げに言うけど、初心者なうえ一年でエースって無理なのでは?といささか疑問に思う。

「おいリエーフ!女の子といちゃいちゃしてる余裕があるなら前走れー。」
「わ!黒尾さん!」

確かあれは、主将の3年生だ。
私は練習の邪魔をしてはいけないと、また更にペースを落とした。

しかしすぐに、このロードワークの列を追い越さなくては帰れないことに気付く。
私はじゃあねと言って脚に力を込めた。

「あっ、待って!」
「ん?」

リエーフの声に、私は少し脱力する。
追い越そうとしたリエーフと並走する。

「あのさ、明日の英語って宿題あった?なんか言ってた気がするんだけど眠かったし思い出せなくてさー!」

そんなことか、と思わず自転車から落ちそうになった。

「ないよ!それ来週の話。」
「あー!なんだ!」

リエーフは安堵の顔をした。そんなに不安だったのか?

「よかった!俺部活で疲れて、家帰って飯食って風呂入るとすぐ寝ちゃうからさー。」
「運動部は大変だよね。」
「まあな!この前も合宿で練習三昧!」
「この暑さの中で?わー、しんど…。」
「全然!むしろ天国だった!」
「え?」
「だって朝から晩までバレー漬けなんて、夏休みしかないじゃん?」

その目は新しいおもちゃを買い与えられた子どもみたいにキラキラしていた。
そっか、リエーフはバレーが大好きなんだ。

きっとリエーフだけじゃない。
こんな暑い中黙々と走ることが出来るみんな、バレーが好きなんだろう。

そりゃそうだよね、でもなんかいいな。
そうやって夢中になれるものがあるって。

「それにウチは今年、全国出るから。」
「…!」

そう付け足したリエーフの顔は、さっきとは一転して獲物を狙う獣のように鋭かった。

適当なんかじゃない。
本気で言っているんだ。
私は思わず息を飲んだ。

「だから、応援来てくれよ!」
「…え?あ、ああ、うん。予定が合えば…。」
「よっしゃ!」

リエーフはまた子どもみたいに笑った。
なんか、調子狂っちゃうな。


いつの間にか、前を走っていた2・3年生と思える集団は私と並走するリエーフと、少し前を走る同じく1年生2人から大きく離れていた。
私はそろそろ帰らないとと思い、また少し脚に力を入れた。

「なんか、いいかも。」
「?」

リエーフの呟きに、また私はペダルを踏む力を弱めた。
横に視線を移せば、リエーフは目が合ってニカッと笑った。

「ねぇ日和ちゃん、マネやってよ!」
「え、無理。」
「即答ー!?」

リエーフはがーん!と音が出そうなくらいショックを表に出していた。

「だってこの感じさぁ…こう、ジョギング中の選手を応援する自転車に乗ったマネみたいですんごい燃えるのにさぁー!」
「いや私バレー全然わからないしマネージャーとか絶対無理。」

なんと言われても無理なものは無理だ。
リエーフはちぇーと項垂れる。

ああ、もう帰ろう。
しかしそう思った瞬間、ごうっと強風が吹く。

「あっ!ピンク!」

リエーフの声に一瞬固まる。
えっ!?とこちらを見る1年生の2人。

「…っ!!もう知らない!へんたい!リエーフのばーか!へんたい!!」
「えーなんで!?」
「いや完成に灰羽君が悪いよ…。」

芝山君がさっきより顔を赤くしてリエーフを宥めた。

リエーフは相変わらずリエーフだ。
ちょっとだけかっこいいかも、とか思ったけど、やっぱりそんなことない!

「じゃーね。私帰る!」
「え、おーい!待ってよー!日和ちゃーん!マネやってよーー!」
「煩いなー!」



ぐんぐん距離が離れていき、すぐに前を走っていた集団に追いついた。

「や。リエーフに喝入れてくれたの?彼女ちゃん。」

黒尾さんに声をかけられ、私はスピードを緩めた。

「そ、そんなんじゃないですよ!あんなんただのクラスメイトです!」
「あれ、彼女じゃないの?」

彼女!?
私がリエーフの…彼女!?

傍から見たら、そんなふうに見えたの?


「なーんだ、お似合いだと思ったけど?」
「…か、からかわないでくださいよっ!」

私は苦笑いしてバレー部の集団から離れていった。



信号に引っかかって、片足を地面につけた。
あまり涼しいとは言えない風が吹いて、今更どっと汗が噴き出てきた。
気付かない内に物凄く体温が上がってたみたい。


「これは違う。夏の暑さのせい。そう、これは夏のせいなんだ…。」



そんな夏の、ロードワークの道中。



fin.



公開:2018/07/30


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