アレの日の前


「日和、よく食べるね。」

目の前の日和は、じっと見ていたおれにようやく気付いて、視線をこちらに向けた。

「うん、だって美味しいもん。」

日和はにこにこ笑う。
ほんと、幸せそうに食べる人だな。

「そうじゃなくて、量…。その焼きそばパン、もう何個目?」

おれが指さす先には、封が切られた菓子パンの抜け殻。
しかも2袋ある。つまり、今3個目のパンを日和は頬張っているわけだ。

おれは食が細い方だから、みんなが普通どれくらい食べるのかの見当がつかない。
だけど、この間犬岡がそれくらい食べていたのを見た気がする。
だから、今の日和がいつもと違うのだということは、なんとなく分かった。

「生理前だからかなー。」

日和は恥ずかしげもなくそう言った。
おれはなんだか目のやり場に困るように、視線を泳がせた。

そういえば、個人差こそあれ、月経による体調の変化はよくあるらしい。
すごく眠くなるとか、気分が上がらないとか、怒りっぽくなるとか。
ホルモンバランスが崩れるせいだと言うけど、日和の今の過食も、多分それのせいなんだろう。

女の子はみんなこういう体の変化が月に一回も訪れて大変だろうな。おれだったら絶対に嫌だ。男でよかった。
日和だって、今でこそ美味しそうに高カロリーの物を食べているけど、本当はどこか後ろめたい気持ちがあるんじゃないかな。

おれが思考に耽っていると、日和は、あ、と何か思いついたように声を上げた。

「大丈夫、フェラくらいしてあげるよ?」

いや、そういうことを考えてたわけじゃない。
おれは溜め息を吐いた。

「パン食べながらそういうこと言わないで。」
「あはは、途端に焼きそばパンが卑猥になった。」

ケラケラ笑う日和をじと…と睨みつけると、日和は笑いながらもすまなそうに眉を寄せた。

「ごめんごめん。」
「…体調悪いのにそんなことさせないし。」

日和はあら、と目を大きくして、
「研磨優しいね。」
とかろうじて聞き取れる声でもごもごと喋った。口に焼きそばパンを頬張った直後だったからだ。

日和はおれを、男をなんだと思ってるんだろう。
おれは拗ねて何処か行ってしまいたい気持ちを堪えた。

「赤ちゃん作る準備でしょ。」
「え、うん。」
「自分のこと大事にしなよ。」
「!」

日和は焼きそばパンにかぶりついたままじっとおれを見た。

「…研磨、赤ちゃん欲しいの?」
「…。」

日和は、どういう意図で聞いたんだろう。

「や、ほら、研磨って子どもとか苦手じゃん?」
「…好きじゃないけど。」
「うん。でも今の、…子ども欲しいみたいに聞こえるよ?」
「…え。…まあ。」

子どもか。
日和とおれの…。
まあいれば別に悪くは無い。
でも特別欲しいとは思わない。
だって独占できなくなるわけでしょ。


「…まだおれだけの日和でいてよ。」
「…え!」


日和は、ぴたりと手を止めた。



「やだ、なにそれ。研磨かわいい…!!研磨、かっわい!!」
「…可愛くないし。」
「お願いもっと!もっと言って!」
「言わないし。」
「研磨ぁぁぁぁ…!」
「日和、うるさい。」
「ごめん!黙るから!研磨だいすきー!」
「…なんなの、突然。」


しばらくは2人だけでいようね。



fin.


公開:2018/03/20


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