きみは妖怪


「妖怪?」

綺麗に切り揃えられた前髪がふわりと揺れる。
大きな目の、小さな瞳孔が、じいとわたしを見ている。

「わたしは、好きだよ。」

素直にそう言うと、彼はにいと笑った。

「日和チャンに言われると調子のっちゃうなぁ。」

彼はそう返した。
わたしも笑っていた。



「天童くんは…座敷童子かな?」

日和チャンは妖怪オタクだった。
だからかわかんないけど、他のやつと違って俺を避けたり虐げたりしなかった。

「ん?なにそれ。」
「小さな子どもにしか見えない妖怪。」
「エッ、なにそれトットロ?」
「トットロは妖精でしょ!座敷童子は妖怪!」
「同じじゃん?」
「それはさすがに違うよ!」

日和チャンは妖怪のことになると、無知なヤツがごちゃごちゃ言うのを黙っていられなかった。


「あっ、でも、サトリっていう妖怪もいるよ。」
「え、俺?」
「んー、人の心を読むの。何考えてるのかわかっちゃうんだよね。」
「あはは、ゲスブロック。」
「うん、だから、やっぱり天童くんは妖怪なのかも。」
「それは喜んでいいのカナ?」
「うん。いいと思うよ。」



だから俺は、どんなに邪険にされても俺のコンセプトを変えることは無かった。



『俺の気持ちいいバレーがしたい。』


個人プレーが致命的なバレーで、自己中心的な意見。
それでも監督は俺を選んだ。

そして。


「おーい。」
「あっ、日和チャン!」
「何考えてたの?ぼーっと窓の外なんか見て。」
「んー?…んーとねー…、」

昔のこと思い出してたって言ったら、なんか馬鹿にされそーだな。

「ヨウカイについて考えてた!」
「えっ!」

そんなに驚くこと?

「どうしたの、突然。今まであんまり興味無さそうだったのに。」
「えー、別にキョーミなかったわけじゃないよ?日和チャンの話が専門的すぎて着いてけなかっただけ。」
「そ、そんなにかな…。」

日和チャンは照れくさそうに笑った。
別に褒めてないんだけどなぁ。

「俺よく妖怪って言われてたジャン?」
「…うん、そうだったね。」

日和チャンの表情が曇る。
そんな顔させようと思ったわけじゃなかったのにな。

「でも日和チャンは妖怪好きって言ってたなーと思ってサ!」

俺はニヤニヤ笑いながら日和チャンを見る。

昼休みのざわざわとした廊下。
あ、チャイム鳴りそう。
やべ、次移動教室じゃん?


あー、チャイム鳴っちゃっ…、


「わたしは、好きだよ。」


「…んっ?え、ナニナニ?聞こえなかった!もっかい言って!」
「2回目はないヨー。」

いやいやいや。

俺はあの言葉を思い出す。

「あはっ、ウソだぁ。3回目デショ?」
「え?」
「ゴメンね、覚えてるんだ〜昔日和チャンが同じこと言ったの。」
「…!」

俺にとって、大事な言葉。


じーっと日和チャンを見てると、ふいと視線を外されちゃった。

「ゲスってます、ゲスってまーす。」
「ちょっと、ゲスらないでよ、覚!」

2人してけらけら笑って、授業が始まってることを思い出して、教室に戻った。

荷物を持って廊下を走って。
隣で笑ってる日和チャンを見た。


今強豪の白鳥沢でレギュラーやってられるのは日和チャンのおかげ。

みんなが遠ざける中、俺から離れないでいてくれた。


「日和チャーン!」
「なにー?」
「いつもアリガトねー。」


あはは、また顔真っ赤になった。






fin.

公開:2016/12/24/土


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