パーティー!
それは、11月16日、研磨と別れた後の帰り道のこと。
「鉄朗、誕生日何が欲しい?」
「え?日和。」
わたしが何気なく聞くと、鉄朗は即答した。
「言うと思ったあ!」
わたしが素直な感想を漏らすと、鉄朗はニヤニヤと笑う。
「何、期待してたの?」
「ちがああう!」
わざと怒って見せると、鉄朗は肩を竦めて、ごめんと笑った。
「て、てか!鉄朗なら『勝利』とか言いそうだと思ったけど違うんだ?」
「あったりめえだろ?勝利は自分の力で掴み取るもんだからな。」
鉄朗はわざと声を低くして、かっこつけた。
「いや別にカッコよくないよ?てか、わたしは自分の力で掴み取らないのかよ。」
最もなことを言えば、鉄朗は眉を寄せる。
「だってそこは日和次第だろ…。」
「いやなんでそんな急激に自信なくすの!?大丈夫だよ!自信持ってよ!」
わたしが慌ててまくし立てると、鉄朗はだんだんと表情を明るくしていった。
「まあとにかく俺は日和と居られればプレゼントとかはいいよ。」
「うっ…!」
さらりとそう言う鉄朗に、わたしは顔を真っ赤にする。
「じゃ、じゃあ、わたしさえいれは何があってもいい?」
極端な言い方をすれば、何を想像したのか鉄朗は苦笑いした。
「いやそれはなんか怖いわ。…とりあえず俺は誕生日くらい日和独占したいから、それができるなら多少の劣悪環境は許せる。」
「劣悪…。」
なんとなしにそう言ってのける鉄朗。
わたしは気を取り直して本題を伝えた。
「…わ、わかった、じゃあ明日の昼休み、迎えいくから!」
「?迎え…?」
わたしは恥ずかしくなって、さっさと会話を終わらせた。
ちょうどわたしの家の前に来たので、じゃあねと言って頭にはてなを浮かべる鉄朗とわかれた。
「「黒尾さん、誕生日おめでとうございまーす!!」」
わたしが鉄朗と教室のドアをくぐり抜けた途端、クラッカーの乾いた破裂音と、男子生徒たちの声が溢れてきた。
空き教室を借りて、音駒男子バレー部で鉄朗の誕生日パーティーをしよう、という企画のためだった。
立案者はわたしで、主に企画を進めたのは副部長の海先輩だったので、わたしはそっと海先輩の所に行って挨拶をした。
「先輩、今回は色々ありがとうございました!」
「うん、部長の誕生日だからね、これくらい盛大にやらないと。寧ろ日和ちゃんが発案してくれてありがたかったよ。」
海先輩は、菩薩のように柔らかく笑った。本当にありがたい…。
向かい合わせにしたいくつかのテーブルの上には、お菓子やらケーキやらジュースやらが所狭しと並んでいる。
みんなが次々と袋を開けてくれて、ジュースを注いだ紙コップで乾杯をした。
お菓子を漁ったり駄弁ったり、そうこうしていたら、イベント担当をしてくれていた虎くんが唐突に声を上げた。
「よーしお前らー!そろそろ黒尾さんゲームやるぞー!」
「何だよ、そのつまんなそうなゲームは。」
鉄朗がいつものように虎くんを茶化す。
虎くんは、待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせて周りを見渡した。
「これはですね!とりあえず俺がやって見せますね!まずこう、割り箸に番号を書いて、こう…手で隠して、せーので引きます。そしてみんなで同時に天高く叫びます。『黒尾さんだーれだ!?』」
「俺だよ。」
「違うんす!!いや、違くないっすけど!!違うんすよお!」
虎くんの一生懸命な説明は鉄朗に一蹴されてしまった。
虎くんは歯がゆそうにディスコミュニケーションを噛み締めた。
「違うんす…違うんす…!」
「何がだよ?」
「いやだから、これは王様ゲームの黒尾さんバージョン…」
「いいから、絶対つまんないしやめようよ。」
虎くんの声を遮って、気怠そうな声が聞こえた。研磨くんだ。
「そうッスよお!女の子だって1人しかいないし、確実に盛り上がらないですって!」
「お、おいリエーフ…俺先輩だよな…?」
リエーフくんが何気なくそう言うと、虎くんはすっかり落ち込んでしまった。
「まぁ、昼休みもそんな長くないんだし、ゲームとかはいいから、みんなこの時間で菓子と飲み物片付けろよー。」
片付けろ、とは勿論食べ尽くせ、飲み尽くせということだ。
「ああ、そういえば次の時間、英語の授業でこの教室使うんだった…。」
追い討ちのように、海先輩が呟く。
みんなはテーブルの上を見やって、不安な表情になる。
「おれ、次寝れる授業なんで!腹いっぱい食えます!」
「あ!おれも!昼飯抜いてきたんで!!」
犬岡くんとリエーフくんが再びテーブルに飛び付く。
「よ、よーし!お前ら、部活終わるまで保つようにいっぱい食っとけよー!」
「お、おれは…寝ないように頑張ります!」
夜久先輩や芝山くんも、自分を鼓舞するように声を張り上げる。
みんなも負けじと手を伸ばす。
みんなは鉄朗の誕生日ということも忘れ、無我夢中で飲み食いを始めた。
わたしと鉄朗は、そんな部員達の姿を一歩下がった場所から見ていた。
「すごい。さすが主将だね。鶴の一声的な。」
「素直な連中でありがてえよ。」
鉄朗は苦笑した。
それでも、どこか誇らしそうに彼らの背中を見ていた。
「みんなでお祝いできてよかった。」
わたしは、ポツリと呟く。
視線に気づいて見上げると、鉄朗はじっとわたしを見つめていた。
「…え?ど、どうしたの…?」
わたしが慌てていると、鉄朗はふっと笑った。
「日和、ありがとな。」
ぽんとわたしの頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫で回す。
わたしは頭を揺さぶられ、腕をばたつかせて抵抗した。
「わああっ!」
「日和。」
「えっ?…ん?」
突然名前を呼ばれ、顔を上げる。
…ちゅ。
「……え?」
「ん?あー!くっ、黒尾さんー!?」
偶然顔を上げたリエーフくんの大声で、部員全員の視線を浴びる。
当のわたしはテンパって、口をぱくぱくさせるだけ。
鉄朗はにやりと笑った。
「続きは夜な。」
「えっ、えっ…!?」
額にパチンとデコピンされ、わたしは我に返る。
…キスされた!人前で!
「てっ…てて鉄朗うう!!」
「おーいそろそろごみ集めしろよ。」
鉄朗がそう声掛けすると、みんなはぞろぞろと片付け始める。
「なーんだよイチャコラしやがって。」
夜久先輩が笑いながら目の前を通過していき、わたしは顔が真っ赤になった。
「片付けするぞ。」
鉄朗はニヤニヤ笑いながら、わたしの背中を押した。
「わ、わかってる!」
わたしは鉄朗を追いかけ、仕返しに彼の背中を思いっきり叩いた。
「いってえ!」
「おかえし!」
結局片付けは間に合わず、みんな5限は遅刻する羽目になった…。
fin.
クロおめでとう
公開:2016/11/17/木
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