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▼握って離さないでください






一日こちらを案内しつつ、思う存分楽しんだ。旧友には楽しんでもらえただろうか。名残惜しいが彼の帰りの電車の時間が近づいてきている。駅まで見送るよ、と告げて今は二人で駅へと向かっているところだ。
「いかがでしたか」
「すっげー楽しかった!」
「良かった!」
「みょうじさえ良ければまた会って欲しいんだけど」
「いいよ!もちろん旧友の頼みとあらば!」
当たり前じゃん、と笑いかける。しかし、その明るい空気とは裏腹に、彼の駅へと向かう歩みがぴたりと止まった。
「?、どうしたの」
「その、今度会うときは旧友としてじゃなくて、恋人として会いたいんだけど……駄目?」
「え……?」
これは一体。何が起こった。いや脳は理解しているけれどそれを心が拒否している。
クラスの友人の読みは当たっていたのだ。
「そういう風に見たことなかったから……」
「これから見てくれればいい。中学の頃からずっとみょうじのことが好きなんだ」
「えっと、気持ちは嬉しい。……けど――――」
いい返事など出来ない。私の答えは決まっているのだから。


■□■□■


覚束無い足取りで帰路へ着いた。『困らせてごめん』と言ったきり、彼とはその場で別れ、見送ることは出来なかった。何だか不安定な気持ちだ。
それでも、今は角名くんの顔が見たいなと思った。電話とか突然掛けたら迷惑かな。ただ、彼の声が聞きたかった。
スマホをカバンから取り出した手は、名前を呼ばれたことによって止まった。
「みょうじ?」
「!、角名くん」
あまりにもタイミングが良くて夢かと思った。それと同時に安堵した私が居たのも事実で。思わずスマホを握る手から力が抜けて落としてしまう。
「うわっ!」
「何やってんの」
落ちたスマホを角名くんはさっと拾ってくれた。画面割れたりしてないといいけど。
「ありがと」
「気をつけなよ……ってみょうじ?大丈夫?」
気持ちを向けることは相手にも負担が生じるわけで。私の気持ちは角名くんにとって迷惑だったりするのかな。そう思うと苦しくて仕方がなかった。
覗き込む彼の顔はぎょっとしている。顔に出てしまっていただろうか。
「送るよ」
「いや悪いよ」
「いいから。そんな状態のみょうじほっとけないよ」
行くよ、と角名くんに手を引かれて歩き出す。冷えきっていた手に彼のあたたかい手が重なった。
ぼそりと彼は何か呟いたようだったけれどそれは夕暮れに霧散した。何も聞かずに黙って手を引いてくれるのがただただ嬉しかった。





▽おまけ

課題が尽く進まないので今日はお開きということになった。双子と銀は晩御飯も外で食べていくらしいけれど、俺はもやもやしてそんな気分にはなれなかった。そういうわけで帰路に着いている。
駅前から少し歩いたところで、今俺の脳内の大半を閉めている人物を発見した。昼間見た時の服装ままなのでみょうじで間違いないだろう。
「みょうじ?」
「!、角名くん」
後ろから声をかけたのがいけなかったのか、みょうじは手にしていたスマホを落としてしまった。
「うわっ!」
「何やってんの」
さっと落ちたスマホを拾って彼女に手渡す。
「ありがと」
「気をつけなよ……ってみょうじ?大丈夫?」
手渡した後、彼女の顔を見てぎょっとした。みょうじは今にも泣いてしまいそうな、苦しげな表情をしていた。何かあったのだろうか、と思うも無理に聞き出したくはない。しかしこのまま彼女を一人にしたくもなかった。
「送るよ」
「いや悪いよ」
「いいから。そんな状態のみょうじほっとけないよ」
行くよ、とやや強引に手を引いて歩き出す。握ったみょうじの手は冷たかった。
「…………今伝えるのはやめた方がいいよね」
ぼそりとつぶやいたそれは夕暮れに霧散していった。気持ちを伝えるにしても、今はその時ではないだろう。気持ちを押し付けて彼女を混乱させるのは本意ではない。愛しい彼女には苦しげな表情なんかよりも花の咲いたような笑顔が似合うのだから。








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