×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

▽非日常ってわくわくしませんか






文化祭に向けてラストスパートと言ったところだろうか。当日まで残り日数もあと僅かだ。
俺のクラスは和風喫茶をやるが、接客は女子が大半のためシフトに入れられずに済んだ。クラスメイトの伝手で、女子の浴衣のレンタルが安く済んだという理由から女子は多めに接客にまわされている。みょうじもシフトに組み込まれていた(なぜか俺に申告してきた)。
今は担当していた裏方作業も終わり、教室で休憩しているところだ。他のメンバーはすでに帰ったり、他の作業の様子を見に行ったりしている。そのため教室には現在俺だけだ。
壁に持たれてスマホをいじっているが、それもこれもみょうじを待っているからだ。トークアプリに『帰らず待ってて!』とだけメッセージが来ていた。みょうじに弱いのはまあ自覚しているが、素直に俺は彼女を待っているわけなのである。
そろそろ待ちくたびれたなと、時計をちらりと確認しようとしたところでガラリと教室のドアが開く。
「角名くんお待たせ!」
「みょうじ、やっと来……」
スマホから顔を上げるとそこにはみょうじがいた。しかし、いつもの見慣れた制服姿ではなかった。
「見て見て!」
浴衣の上にフリルの付いたエプロンを付けている。髪はシンプルながらも編み込まれて一つに綺麗に纏めてある。みょうじはその場でくるりと回ってみせた。
「いかがですか角名くん」
「いかがも何も」
「もう!1番に見せに来たんだよ!」
後ろの帯とか可愛いでしょ?とみょうじが言う。ころころ変わる表情が眩しいと思った。
「似合ってるよ」
「ほんと?」
嬉しい、と彼女は満面の笑みをこぼす。うん、可愛い。
「あとね、私のシフト終わったら一緒にまわって欲しいなぁ…というお誘いをしにきたのですが」
さっきまでの勢いはどこへ行ったのか、控えめな誘いだった。
「いいよ」
「ほんと!?嬉しい!」
ぱぁっと表情を明るくさせ、ほんのり頬を紅潮させている様に心臓はどくりと脈打つ。彼女は試着途中だったのか、クラスメイトに呼ばれて話もそこそこに行ってしまった。


■□■□■


そんなこんなで文化祭当日を迎えているわけだけれど。そろそろみょうじのシフトが終わる時間なので、教室へ向かっている。どうせならと迎えに来たのだ。
教室もとい和風喫茶はなかなかの賑わいを見せている。俺は入口付近にいた案内係のクラスメイトに声をかけた。
「みょうじいる?」
「もうそろそろ終わると思うで」
一緒にまわるんや?と言いたげなそのにやにやした顔をやめろ。中を見るとみょうじと目が合った。
「あっ角名くん!もう上がれるから!」
みょうじはそう言って急いで奥に引っ込んだ。ばたばたと慌ただしいやつ。でも自分が姿を見せたことであんなにも表情を変えられるのは悪くない。
「みょうじなぁ、あれで結構人気やってんで」
「ふぅん……」
「この後一緒に回らん?とかよう誘われとったで」
「ふぅん……」
「いや角名顔怖っ」
「は?」
「何なん…それ無意識か?」
クラスメイトの指摘にどうしたものかと思っているそばから、みょうじがお待たせしました!と言って出てきた。その姿はまあ確かに愛嬌あって可愛らしいが、などと考えていると彼女は疑問符を頭に浮かべている。
教室を離れて歩き出すも、クラスメイトの言葉がやけに脳裏をよぎる。他者から見ても彼女は可愛いわけだ。そのことを考えると胸の内がチリリとどうにも焦がされたようになる。焦りにも似たそんな感情を誤魔化すようにして、いつもと違ったお祭り騒ぎの校舎内へと繰り出した。








Back