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▽知らんぷりしないでください






朝学校でみょうじを見るとマスク姿が目立った。ゴホゴホと咳をしており、すっかり風邪をひいたようだった。その手にはスケッチブックを持っている。
『おはよう角名くん』
「おはよう。みょうじ風邪?」
『喉が痛くて喋れないから書いてるよ。風邪ひいたの』
予め用意していた文章なのか少し会話が噛み合わない。どうやら今日1日筆談で乗り切るつもりのようだ。


■□■□■


筆談でどうにかなるのかという心配をよそに、みょうじはどうにか放課後まで乗り切った。6限目の移動教室からの帰り、途中の自動販売機が目につく。小銭はあったかな。自分の分の缶コーヒーと、温かいレモンティーを買った。
教室に戻ると換気のためか窓が開けられており、少し肌寒い。みょうじは数人分の膝掛けとジャージに包まれていた。きっとクラスの女子達に包まれたんだろう。
「暖かそうだね」
こくこくと頷くみょうじ。やっぱり声が聞けないのは少し寂しいな。ここで俺はみょうじがスケッチブックを持っていないことに気づいた。
「あれ?スケッチブックどうしたの」
無言でみょうじが指さした方を見ると何やらクラスメイト数名が盛り上がっている。聞こえてくる話からはイラスト大会と化していることが察された。
「………持ってかれたわけか」
包まっているジャージや膝掛けを摘んでみせたあたりから、これが交換条件だったようだ。
そう言えば自動販売機に寄ったことを思い出す。買ったものの片方をみょうじに差し出した。
「みょうじ、これあげる」
「!」
きらきらと目を輝やかせ、にこにこしているのがマスクをしていてもわかる。何かを言いたいのだろうペンを持ってわたわたとしている。しかし手元にスケッチブックはない。見兼ねた俺はみょうじに手のひらを差し出した。
「手に指で書きなよ」
意図を理解したみょうじは、頷くと指で文字を俺の手のひらに書き始める。指の動きが少しくすぐったかった。
『ありがとう』
「どういたしまして」
ペットボトルを大事そうに持ちながらみょうじはにこりと微笑む。そこにクラスメイトからスケッチブックが返却された。
さて部活も始まる時間になるので、帰り支度をし始める。すると背中にみょうじが文字を書き始めた。
「………何て書いたの」
くるりと後ろを振り向くと、スケッチブックには『何でもないよ!』の文字。はにかむ彼女の顔に心臓はどくりと脈を打つ。
書いた内容を尋ねたけれど、本当はわかっていた。書かれたのは多分小さなハートマーク。俺はどこか気恥しくて、それに気づかない振りをした。








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