×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

▼少しはどぎまぎしないんですか






角名くんとばったり会って一緒に夕飯を食べた帰り道。店の外に出ると辺りはすっかり暗くなっていた。
「はー、美味しかった!」
「外ちょっと寒いね」
「最近朝夕は冷えるよねぇ」
日が落ちて気温も下がる季節となってきた。二人で駅へと歩き出す。そろそろマフラーとか出さなきゃなあ。
角名くんと最寄り駅が一緒で良かった。長い時間傍に居られるのは幸せ以外の何物でもない。駅で電車を待っているけれど、それにしても人が多い。
待っていた電車が来ると、私たちは人の波に押されるようにして乗り込んだ。人が多いとは思っていたけれど若干苦しいくらいだ。
「みょうじ」
こっち、と呼ばれた方へ顔を向けると腕を引っ張られる。角名くんは窓際に腕をついてスペースを作ってくれている。
「助かった、ありがと〜…」
「みょうじ埋もれて見えなくなるかと思った」
「久しぶりに満員電車に乗ったよ」
「普段バスだもんね」
車内なので小声で会話をする。そして角名くんの顔を見ようとした途中ではっと気づく。めちゃくちゃ今距離近すぎませんか。そう思ったそばからカーブに差し掛かったのかガタンと電車が大きく揺れる。
「ごめん、みょうじ潰れてない?」
「だ、大丈夫!」
普段こんなに密着することなんてないから何を考えていいかわからない。誰か助けて欲しいとまで思う。大きな駅で人がどっと降りたため、タイミング良く二人席に座れることができた。さっきよりは密着していないとは言うものの、それでも近い距離にどぎまぎしてしまう。気を紛らわそうと考えていた矢先、私はあることを思いついた。
「角名くん角名くん」
「何?」
カバンからスマホとイヤホンを取り出して角名くんに見せる。
「次の対戦校の動画スマホに入れておいたの」
動画を見ていれば気も紛れるはず。しかしイヤホンの片方を手渡してから私は気づく。私の左隣に座る角名くんに左側のイヤホンを手渡してしまったことに。右側のイヤホンを手渡すべきだった。
近い距離を紛らわそうとしたのにこれでは本末転倒である。本人は何食わぬ顔で動画を真剣に見ているのがちょっぴり悔しくもある。その真剣な横顔に邪な想いを抱いていることがいたたまれない気分になってきた。
早く着いてくれないと私の心臓が持たない反面、この時間がずっと続けばいいのにという気持ちで板挟みになりながら私は電車に揺られ続けるのだった。








Back