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▼隠し味は愛情って言いますから






家庭科室にいい匂いが漂う。お昼前の授業は調理実習だった。課題はだし巻き玉子だ。
「よっ……と、こんなもんかな」
「わぁ!なまえちゃん上手いもんやな!」
「いやぁそれほどでも…」
同じ班のクラスメイトに褒められて照れてしまう。自分で言うのもなんだけどなかなか綺麗に卵を巻けた。昔の私とは大違いだ。
他の班のクラスメイトも話に混ざってくる。
「なまえは料理上手やからなぁ」
「そんなことないよ」
「またまた〜」
「ほんとだって!1年前までは全然上手くなかったから」
そう、1年前はお弁当どころかだし巻き玉子も上手く巻けなかったのだ。


■□■□■


1年前の秋、家庭科の課題はやっぱりだし巻き玉子だった。翌週実技テストがあるため、私は家庭科室に居残っていた。
「ダメだ〜…どうしても上手くいかない」
ぽつりとこぼした声は家庭科室に霧散していく。これ以上失敗すると卵も勿体ないと思う。はあ、とため息をこぼすと家庭科室の扉が開いた。
「みょうじまだ帰ってなかったの」
「わ、す、角名くん」
そこに現れたのは私が密かに想いを寄せている角名くんだった。
「角名くんも今日居残りとか?」
「俺は先生の頼まれごと」
下駄箱に向かう途中、家庭科室に電気がついていて、覗いてみたら私がいたので声をかけたらしい。
「これ全部練習したの」
「う……はい…全然上手くいかないんだけどね」
所々焦げていたり、形が崩れていたりと見るも無惨な卵たちが皿にのっている。
「は〜…可哀想な卵は角名くんにあげます。私はもう食べ飽きたから」
「ん」
「味もね、しょっぱかったり卵の殻が入ってたりして悲惨なんだよ〜」
箸を手渡すと角名くんは卵を口に入れた。
「ふは、下手くそ」
笑いながら言われたそれにドキッとした。言葉とは裏腹に優しい目をしていたんだもん。角名くんはそのまま卵を完食してくれた。
「次はもっと美味いの期待してる」
角名くんなりに励ましてくれたのかな。すごく嬉しかったこの時のことを鮮明に覚えている。


■□■□■


家庭科の調理実習で作っただし巻き玉子はもちろん角名くんに食べてもらう。
「今日の視線はえらい熱烈やな」
「正直視線が刺さって食べにくい」
あの時からだし巻き玉子を作るときは必ずあの日のことを思い出す。
「みょうじこれ上手になったね」
「!、へへ」
それはぼそりとつぶやかれた程度だったけれど、私の胸はぎゅうってなった。見た目ももちろん綺麗に作れるようになったけれど、隠し味の愛情が溢れるほどたっぷりつまっているのだ。








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