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▼わがままにお付き合いください






「困ったねぇ角名くん」
「本当にね」
今私と角名くんは下駄箱の前の廊下にいる。出入口からは死角になる位置だ。というのも、ここから私たちは動けずにいるからだ。


■□■□■


数分前、私はここの廊下に差し掛かった。今日は部活がないので早く帰れる日だ。そういう時に限って先生から用事を頼まれてしまったのだけれど。角名くんと一緒に帰りたかったのに。泣く泣く先に帰ってもらった。
先生からの用事を済ませ、下駄箱へ向かう。するとそこには角名くんの姿があった。
「す、角名くん!もしかして待っててくれたの」
「うん。一緒に帰ろうと思って」
「嬉しい!角名くん好きっ!」
「なまえ、しーっ」
静かに、と人差し指を立てて口の前に持ってくる。何ですかその仕草、可愛いじゃないですか。
そして彼は、無言で玄関を指さした。
「?」
そっと覗くと大まかに状況は把握できた。男女が何やら話しているみたいだ。要するに告白現場だろう。外へ出ようとすれば向こうからは丸見えだろうし、空気を読んで告白が終わるのを待つ他ないと思われた。
「……見た?」
「うん。なるほどこれは動けないね」
「でしょ?」
二人して小声でひそひそと話す。
「どこの誰かなぁ、あれ」
「あれ治だよ」
「えっほんと?!」
「こら、なまえ声大きい」
「ごめん……、あれ治かぁ」
確かに双子は人気があるし、度々呼び出されてるのも知ってるけど。まさかその現場に遭遇するとは思わなかった。
「治が呼び出されてるとこ初めてみた」
「あいつ結構呼び出し多いよ」
「えっほんと?」
お昼や放課後にすっと居なくなってることがあったけれどそれだったのかもしれない。そもそも双子の恋愛事情に微塵も興味がないのも原因だろう。
「それは知らなかった……。角名くんが意外と呼び出されてるのは知ってるけど」
「俺はそんな呼び出されてないよ」
「この間!中庭!放課後!部活前!」
「ああ、あれね」
見てたの、じゃないよ角名くん。こちらとしては気が気ではないのだから。彼女としては不満も不満だ。
「あれ、なまえご機嫌ななめ?」
「ななめもななめです!」
「ふーん」
角名くんは興味なさげにスマホをいじり始めた。ご機嫌ななめのまま放置する気なのだろうか。それはそれでツラい。
「……ご機嫌どうしたら治りますか」
「呼び出しの際はご報告ください」
「……やっぱり言った方がいい?心配かけたくなかったんだけど」
「断ったという報告だけでいいよ。相手は言わなくていいから」
「ん。わかった」
その返事に少し安堵する。心配かけたくないという彼の気遣いはありがたいけれど、やはりわからない方が気になる。どうしたって私の方が角名くんを好きすぎるから。
「……なまえも呼び出されたら言ってね」
「ないと思うけど」
角名くんほど私はモテないし。学年なら私が角名くんのこと好きなのかなり広まっているし。
「俺も同席するから」
「いやそれはちょっと」
「それで俺が断る」
「呼び出した相手もびっくりだよきっと」
それにしてもこれは角名くんが私のこと大事にしてくれてるってことでいいよね。なんだか好きなのが私だけじゃないってわかって嬉しい。
「何しとるん」
「うひゃっ」
「あ、治。終わった?」
突然後ろから声をかけられて驚いてしまった。
「終わった?って見とったんかい」
「不可抗力だって」
「ちゅうかみょうじは何をによによしとんねん」
「えっ、私そんな緩んだ顔してる?」
「しとる」
角名くんのちょっとした行動で一喜一憂してしまうのは前々からではあるけれど、最近は特に嬉しいことも多くて。表情もすぐにゆるんでしまうから、ポーカーフェイスの練習を急遽しなくてはならないな、なんて思った。








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