2、飲まない【END竹内親衛隊】 | ナノ
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「…………」
私は、お茶を飲まなかった。
だって、細田さんの話の通りだと、このお茶を飲んだら植物との合成人間になっちゃうんでしょ?
例えそうでなくても、あんまりおいしそうじゃないんだもの。

口をつけるのだってごめんよ。
「どうしたんだい、倉田さん……。
遠慮なんて必要ないんだよ。
これは君に捧げる一杯なんだから」
ゆっくりと竹内さんの顔が迫って来る。

「倉田さん……。
この一杯を飲み干すだけで、君の一生は素晴らしいものになるんだ。
いいかい?
女性に、このお茶を勧めるのは君が初めてだ。
それほど君を気に入っているんだよ」

竹内さんの皮膚のしたで、小さな緑色の物体がモゾモゾと動き回ってる。
額にも……。
頬にも……。
鼻の頭や、眼球にも……。
「さあ、倉田さん……」
竹内さんが口を開くたびに、青臭い息が吹きかかる。

夢の中で嗅いだ草いきれのような匂い……。

……頭の奥がぼーっとしてくる。
その時……。

「ちょっと、お待ちになって!」
勢いよくドアが開いて、一人の女の子が現れた。
腕を組んでて、なんだか偉そうな態度。
どこか見覚えがあるような気がする。
……いったい誰なのかしら?

勝ち気そうな目といい、意志の強そうな口元といい……。
絶対どこかで会ってるはずよ。
でも、どこで…………?
……駄目だわ。
どうしても思い出せない。
女の子はつかつかと私のそばへ近づくと、頭のてっぺんから足の先までをなめる様に観察してる。

そして……。
「あなたが、一年E組の倉田恵美ね」
と、小さく鼻で笑ったの。
……むっ!
なんだか嫌な態度ね。
いかにも上級生っぽいけど、礼儀作法がなってないんじゃない!?
「はい。
私が倉田ですが、あなたはどなたなんですか?」
私は、つっけんどんに尋ねた。

「これは失礼。
私、三年G組の高坂桜子と申します。
よろしく……」
そういって、高坂さんは右手を差し出してきた。
……握手ね。
私も右手を出したわ。
そして、お互いの手をしっかりと握って……。

うっ、なんて力なの!?
高坂さんは眉一つ動かさぜに、これでもかとばかりに力を込めて私の手を握り締める。
はりついたような笑顔……。
でも、目だけは笑ってない。
高坂さんは、ゆっくりと私の手を離しながらポツリと呟いた。

「だから邪魔だっていったのに……」

えっ、私が邪魔……?
……なぜかしら。
前にも似たようなことをいわれた気がする。

「まったく、倉田さんたら……。
竹内清様親衛隊・隊長の、この桜子ですら飲ませていただけなかったサンブラ茶を、断るなんて……。
なんという、身の程知らずな子なんでしょう!」
……そんなこといわれたって困るわよ!

飲みたくないものは絶対に飲みたくないの。
ファンの心理って、予測がつかない怖さがあるから嫌なのよ。
確かに、竹内さんは女の子にモテモテだって細田さんがいっていたけど……。
親衛隊があるほどとは思わなかったわ。

いったいどんな人たちで構成されてるのか……。

「竹内様……。
どうして、こんな子にサンブラ茶を勧めたのですか?
竹内様のためでしたら、桜子は喜んでこの身を捧げますのに……」
高坂さんは、潤んだ瞳で竹内さんを見つめてる。
そんなにこの人が好きなの?

「……そうかい?
じゃあ、君……桜子君だったね。
君でもいいや。
このお茶を飲み干してくれたまえ」
竹内さんの顔には、まだあの不気味な微笑みが張りついてる。
……なぜかしら。

嫌な予感がするわ。
何か邪悪なものが影で動いているような感じ……。
でも、高坂さんはまったく気づいてない。
「はい……!
ああ、竹内様……。
桜子は幸せです」

そういって、とろけるような微笑みを浮かべると、高坂さんはそっとティーカップを手に取った。
そして、そのままいっきに飲み干す。
あんなまずそうなものをいっきに飲めるなんて……。
愛の力って偉大だわ。

「……あーあ」
がっかりしたように呟いたのは細田さんだった。
目の前で、探し求めていたお茶を、いっきに飲み干されちゃったんだもの。
……カチャン。
小さく音を立ててカップが置かれた。

黒っぽい液体は、一滴も残されてない。

高坂さんは、得意げに微笑んで竹内さんを見つめたわ。
そして、
「竹内さん……」
と、いとおしそうに名を呼んだの。

その瞬間、シュルルッと音をたてて、高坂さんの口から緑色のつるが伸びてきたの。
「きゃっ!」

私が悲鳴を上げると、それは驚いたように口の中へ戻っていってしまった。
一瞬にして、私たちは冷たい沈黙に押し包まれる。
だけど……。

「ははは……」
竹内さんの笑い声が、すぐにその沈黙を破った。
「ははは……。
嬉しいよ。
倉田さんにはうまく逃げられたけど、別にこの子でもよかったんだ。
これで僕は一人じゃない。
もう寂しくないんだ。
あははは……」
竹内さんの笑い声と共に、ザァーッと風が吹いてくる。

風は、どこからともなく緑色の霧を運んできていた。

その緑の霧にかき消されるように、竹内さんの姿が見えなくなる。
……夢の中とまるっきり同じだわ。
「竹内さん……!?」
竹内さんの姿が見えなくなると同時に、一陣の突風が吹き込んできた。

その突風に吹き飛ばされて、視界を奪っていた緑色の霧が晴れる。

……あっという間の出来事だったわ。
緑色の嵐が去っていった後には、竹内さんと高坂さんの姿はなかった。
呆然とたたずむ細田さんと、私の二人だけ……。
私たちは言葉もなく、その場に立ち尽くすだけだった。

どれくらい時間が過ぎたのか……。
先に口を開いたのは私の方だった。
「帰りましょうか……」

「……そうだね」
細田さんはコクリとうなずきながら、そう返事したわ。
取材は完了した……。

……それから数日が過ぎた。
後で、噂に聞いたのだけれど、三年G組に竹内なんていう転入生はいなかった。

以前この学校にいた竹内清という生徒は、幻の植物を探すといって外国に出掛けたきり、まったくの音信不通だとか……。

あの時……。
私と細田さんの前に現れたのは、いったい誰だったのかしら?
緑の霧と共に消えてしまった……。
彼らはどこへ行ってしまったの?

今日、七不思議の原稿が完成した。
……七不思議の七番目は不思議な木の話。
三年G組の女子生徒が失踪して学校中の話題になっている頃……。
新校舎の脇にある大きなイチョウの木の隣に、見慣れない若木が生えていたの。

私とあまり変わらない背丈のその若木は、どことなく女の子が身をよじっている姿を思わせる。
ある夜、突然生えた若木……。
この木は、人間の女の子が姿を変えたもの。
うっかり枝を折ったりしたら切り口から真っ赤な血が流れ出るはずよ。

嘘だと思うなら試してみることを勧めるわ。
命の保証はできないけど……。
ほら、そーっと腕を伸ばして……。
細い枝をつまんで、ほんの少し力を入れるだけ。

ほら…………。

(新校舎END)
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