「それじゃあ、いただきます……」
あんまり飲みたくはなかったけど、この体験だって無駄にならないと思うの。
いい記事を書くためだったら、多少まずくたって我慢できる。
……でも、皮膚の下を緑色の植物が這い回るのは、ちょっと遠慮したいな。
一口、舐めてみる程度でもいいよね。
そんなことを思いながら、私はカップを手に取った。
おそるおそるカップに顔を近づける。
……と、青臭い匂いがプーンと鼻をついて気持ち悪い。
や……。
やっぱり、やめとこうかな……。
そんな考えが、ふと頭をよぎった。
……その時!
「僕も!僕も欲しい……!!」
細田さんが叫んだかと思うと、私の手からカップを無理矢理奪い取ろうとした。
……あっ!
そう思った時には遅かった。
カップは私の手を離れ、瞬く間に堅い床の上へ……。
ガシャーン……!!
耳障りな音がして、白い破片と黒っぽい液体が飛び散る。
「あーーーっ!!」
それを見た瞬間、細田さんは絶望的な悲鳴を上げたわ。
「僕の……。僕のサンブラ茶が……。
ううっ、ひっく……」
割れたカップを前に、ペタリと腰を下ろして泣き始める。
なんだか、小さい子供みたい。
自分のせいだってわかってるのかしら?
「倉田さん……。
なんだか、話を続ける状況じゃなくなったね」
竹内さんが、苦笑いしながら話しかけてきた。
まったくだわ。
もう、七不思議なんてどうでもいいかな……って気になっちゃうじゃない。
細田さんが泣きやむ様子はないし……。
「竹内さん……。
すみませんが、後日あらためて、お話をうかがいに行ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、僕はいっこうにかまわないよ。
とっておきのお茶をブレンドして待ってるからね」
私たちは、泣いている細田さんを置き去りにしたまま学校を後にした。
……そして、翌日。
「倉田さん……。
倉田さん……」
教室の前の廊下を歩いていると、ふいに私を呼び止める声がした。
聞き覚えのある声だ。
だけど、私の前向きに人影はない。
振り返ってみても誰もいない。
廊下にいるのは私一人……。
……なのに、
「倉田さん……。
僕はここだよう」
…………えっ?
私は窓を見てギョッとなった。
窓の外から、緑色の頭をした細田さんが覗いていたの。
ここ……三階よね?
そう思った瞬間、私の意識は遠くなっていった。
…………どれくらい気を失っていたのか。
「大丈夫かい、倉田さん?」
私は、竹内さんの声で気がついた。
どうやらここは保健室みたい。
なぜかしら? 窓のブラインドがしまってる。
竹内さんが運んでくれたのかしら?
それとも細田さんが……?
……はっ!
「ほ、細田さんは……!?」
竹内さんはニコニコしながら、もう一つあるベッドを指差した。
そこに、細田さんはいた。
ベッドに腰掛けて、頭を押さえるようにして小さくなっている。
特に変わった所はないみたい。
じゃあ、さっきのはいったい……?
「ねえ、倉田さん。
昨日、品種改良したっていっただろう?
僕の作った新しいサンブラ茶はね、体質を変える効果があるのさ。
ちょうど植物のような体質にね。
そうすれば、水と空気だけで生きていける。
素晴らしいことだと思わないかい?」
「……はぁ」
でも、それがどうしたというのかしら?
昨日のサンブラ茶は、一口も飲まないうちにカップを割ってしまったのに……。
…………あっ!!
あの時……。
細田さんが邪魔で、割れたカップをそのままにして帰ったんだわ。
あのお茶……ほとんどこぼれちゃったけど、少しくらいなら破片の上に残ってたかもしれない。
「細田君……。
君が中途半端に舐めたりするから、こんなことになったんだよ」
そういって、竹内さんは窓のブラインドを思いっきり開けた。
パッと明るい日差しが差し込んで来る。
そのとたん、細田さんの首がビクビクと震え始め……。
ニョキニョキと窓に向かって伸びていったの。
「うわっ!
や、やめてくれよ」
泣き叫ぶ細田さんの頭の上では、青々と茂った葉っぱが揺れている。
「いいかい、倉田さん。
これが、植物が光の方向に曲がって伸びる性質『光屈性』だ。
勉強になるだろ?」
竹内さんは妙に楽しそうだ。
意外なところで研究の成果が見れて、嬉しいのかもしれない。
そういう私の頭の中も、新聞部員としての使命感がムクムクと膨らんでいた。
……これで、取材が完了するわ!
七不思議の七番目は、
「怪奇・ろくろっ首男、校内に出現」
……で決まりね。
でも、ちょっと昔の縁日の出店の出し物みたいかしら……?
(新校舎END)
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