金色が一緒に踊りたいらしいねん




「ええやないのぅ、このままやとアタシだけ天ちゃんと文化祭デートできへんや〜ん?」

クラスの片付けもそこそこに珍しく財前から部室への呼び出しがあり、金色を取り囲むように部員全員が集まると先程の注意書きに対して質問攻めが巻き起こった。それにも飄々としている金色はきっとこの光景も事前に計算していて今の状況を楽しんでいるんだろう。

「白石部長もなんとか言ってくれません?」

痺れを切らした財前が何かを考えている素振りを見せる白石に声をかければ、彼は「まぁ、小さいとはいえこれに気づけへんかった俺らにも責任あるしな」と、注意書きを指して困ったように微笑んだ。
部長の彼がそう言うなら、と騒いでいた部員たちも急に静かになり、あの騒がしい彼らを丸め込む技量のある白石はやはり新参者から見ても流石だと感心せざるを得ない。

***

__時は流れて二日目に行われたテニス部の出し物、もとい新喜劇が終われば、私の所へと金色はドレスを翻して真っ先に駆け寄ってくる。つい先程まで舞台の上にいた人間が私の隣にいるなんて、少し変な感じだ。

「天ちゃんが転入してくるのもう少し早かったら一緒に舞台立てたんになぁ」
「いやいや、演技とか苦手だし!照明も全体が見れて楽しかったよ!」
「ほんまにええ子やねぇ!でも、アタシは天ちゃんにドレス着てほしかったわぁ〜!」
「小春ちゃんの方が似合ってるよ!あ、そうだ!よかったら一緒に写真撮らない?」

もちろん、と快く返事をした彼は私がスマホを取り出すよりも早く自分のスマホを出すとインカメにして私の肩を抱いた。突然の事に驚いてキョトンとした瞬間、パシャっという電子音が聞こえる。そこでようやく写真を撮られたと気づいた私は恐らく間抜けな顔をしているであろう写真の行方が気になって仕方ない。

「ふふ、アタシ、これロック画面にするわ〜!」
「待って待って!絶対私変な顔した!!消してー!!」
「充分かわええよ?ほな、動きにくいしアタシ着替えてくるわ〜!!」

来た方向へ帰っていく金色に緩く手を振るが、なんだか心臓が煩い。近づいた瞬間に鼻を掠めた自分と違う柔軟剤の香りや、いつも女の子みたいにくねくねしてる彼の、ドレスから垣間見える隆起する筋肉に、いつもは感じない男を感じてしまった。知ってはいけないものを知ったような複雑な感情を押し込めようと体育館の外に出てベンチに座った。

***

「お・ま・た・せ」

語尾にハートマークをつけてやってきた金色に私はいつも通りの笑顔を向ける。うん、大丈夫。胸のざわめきも治った。エスコートをするように私の手を攫うと、彼は弾むような足どりで校舎に向かう。それにつられて思い出したかのように私の心臓も跳ねたのは、きっと気のせい。

「小春ちゃん、どこいくの?」
「ごっつおもろいとこ!」

生徒でごった返す廊下を掻き分けて、ついた先には縁日と大きく書かれた看板が目に入ってきた。うちのクラスの出し物やねん、と誇らしげに胸を張って彼は可愛らしいウインクを私にむける。中に入ると賑やかな太鼓のBGMにお祭りの縁日で見かける出し物がひしめき合っていた。

「いっぱい種類があるね!」
「天ちゃんは何か気になるのあるぅ?」
「そうだなぁ……あ!あのキーホルダー可愛いね!」

辺りを見回して真っ先に目についたのは輪投げコーナーの景品にある、二つセットのキーホルダーだった。ピンクと水色のリボンを首につけた可愛らしいうさぎのマスコットを指差す私に金色は任せとき、とだけ告げると係の生徒に軽く声をかけて輪を受け取り少し考える素振りを見せる。

「輪の数は五つ、距離は一メートル、重さと重力考えて__よしゃ、天ちゃん見とってな〜!」

私に向かって大きく手を振ると、再び真剣な表情に戻り高得点の的へと吸い込まれるように輪を投げていく。金色は受け取った輪を全て同じ的に入れると呆気に取られていた生徒に声をかけた。それを遠目で見ていたクラスメイトからはちらほらと歓声が聞こえ、私も思わず拍手をしてしまう。

「こ、小春ちゃん流石だね……!びっくりしちゃった!」
「んふふ、せっかくやし景品欲しいや〜ん?あ、せや、こっちの水色のうさちゃん、もろてもええ?」
「もちろん!寧ろ私が貰ってもいいの?小春ちゃんが取ってくれたんだし、あ、ピンク好きだったよね?ピンクの方がいいんじゃ……」
「かまへんよっ!ピンクが似合う天ちゃんにこのうさちゃんは持っとって欲しいねん」

そう言って私の掌にピンク色のリボンをつけたうさぎのキーホルダを乗せると、彼はおそろいやんね、と満足気に笑った。
その後少し教室内を見て回ったが、先ほどの金色の活躍を見ていたせいか、ゲームへの参加はことごとく断られてしまい、一般公開が終わるまで人気のない場所へ足を伸ばすことにした。

「ゲーム出来ないの残念だったねー……」
「アタシが景品泥棒になると思ったんやろうねぇ……堪忍なぁ」
「ううん、うさちゃんのキーホルダー嬉しいし、こうやってゆっくりするのもいいよね!」
「……あのなぁ、天ちゃん」
「どうしたの?」

遠くで後夜祭の準備をする声がこだまする中、突然深刻そうな表情を見せる金色に私は体ごと彼に向き直り、彼の次の言葉を静かに待つ。すると、一呼吸をおいて、眼鏡の奥の瞳が私を射抜いた。

「天ちゃんは後夜祭のジンクス、知っとる?」
「よく聞く縁結びみたいなやつかな?前の学校でもあったよ!」

意を決したように発した金色の言葉に、正直拍子抜けしてしまう。文化祭でも、体育祭でも、きっと学校行事にジンクスは付き物だ。

「ほー、やっぱり他の学校にもあるんやねぇ」
「それで、そのジンクスがどうしたの?」
「……皆、天ちゃんと仲良うなりたいからダンスのパートナー狙っとんねん」
「またまた〜!まだ転校してきたばっかりだよ?」
「んもう!天ちゃんは自分の魅力に気づいて無さすぎとちゃう!?……ほんまは、このまま後夜祭一緒に踊りたかってん。だってな、一番に仲良うなったんに、他の子に譲るの、悔しいやん?」
「小春ちゃん……」

そういえば、転校したての時関東から来た私に何の隔たりもなく廊下で声をかけて笑わせてくれたのは金色だった。彼には、彼のお笑いにはいつも助けられている気がする。

「せやけど、天ちゃんの気持ち無視して無理やりアタシが踊るのもちゃうと思うんよ」
「でも、スケジュールには……」
「あれは無しや!天ちゃんが心に決めた人がおるならその人と踊り!でも、後夜祭が始まるまで……一曲でええから、今からアタシと踊ってくれへん?」

いつもは女の子よりも女の子らしい彼が、跪くと私に向けて王子様のように手を差し伸べた。なんだか擽ったいその行為に、気の所為だと誤魔化した胸の高鳴りが息を吹き返す。煩いくらいの心音を金色に聞かれてないか不安に思いながら、少し汗ばんだ手を彼の手にそっと重ねた。

「あの、ダンスとかまともにした事なくて……」
「ええよ。二人きりやし適当で」

そう言うと私の腕を引いて腰に手を当てた金色にリードされる形で身体を動かす。後夜祭のリハーサルの為か、タイミングよく微かに聞こえ始めた音楽に合わせて私と金色はステップを踏んだ。暫くして一曲にも満たない楽しい時間は終わりを告げる。

「あ、音楽止まっちゃった」
「リハーサルやろうしねぇ……ほな、お開きにしよか」
「うん……」
「そないに名残惜しそうな顔しとったら攫ってまうで?」
「え!?」
「ふふ、冗談や……!早う、心に決めた王子様んとこ行き」

一瞬見せた寂しそうな笑顔に私は何も言えなかった。
それでも、背中を押してくれた金色の気持ちを無下にするなんて出来なくて、私は思い浮かんだ王子様とダンスを踊る為、ほんの少し勇気を出してみることにした__。

END

prev / next
[contents]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -