Savior-54
アマゾン・リリーへ辿りついてから3日。
連日ルカを見舞う隊長達や船員、傘下の海賊達にペンギンやシャチ、ハートの海賊団の面々は恐縮しっぱなしだった。
「すっげぇな、おい」
「あぁ、こうも連日有名人を見ていると疲れて来るな・・・」
話す2人の前には、ルカのベットの傍らに座り話しかけるマクガイとブラメンコ、クリエル、ナミュールの4人がいる。
「いい加減慣れたらどうなんだよ」
依然付き添っているエースとサッチが2人に苦笑いで告げる。
「いや、新世界の猛者がこんなに目の前にいると思うと緊張もするだろう」
「俺らも立派な新世界の猛者なんだけど?」
「いや、なんかあんた達はバカ丸出しだから・・・」
可哀そうなものを見る目でペンギンがサッチとエースを見て言う。
「何、この子!!めっちゃ失礼!!」
それにサッチがキャンキャンと騒いでいたが、シャチが異変に気付く。
「あれ?そういや不死鳥はどこいったんだ?」
「あぁ、マルコは足りない物資だのの確認と女帝にその物資の確保が可能かの交渉だとかであちこち動き回ってんだよ」
「ルカに着いててやれってオヤジに言われたんだけどさ。あいつ仕事大好き野朗だから」
「へ〜、そうなんだ」
そんな事を話していた頃、ルカはと言うと。
『っと、こんなもんかなぁ??なんかすっごい話しまくった!!』
「随分と沢山の経験をしたんだな」
ルカの話をニコニコとしながら聞いていた男はそう言った。
『うん!沢山辛い事もあったし、悩んだりもしたけど。その何倍も楽しい事面白い事があったんだ!!』
「そうか、それじゃぁ。最後にお前にご褒美だ。おいで」
そう言って立ち上がった男がルカの手を引いて、歩き出す。
『どこ行くの?』
不思議そうにしながらも、その後ろを手を引かれながら追う。
と、視界の先に光が現れた。
「ここを抜けたら、お前の世界だ。戻ることは出来んが・・・見ることは出来る」
行くか?と聞いた男にルカは声を出さずに頷いた。
そして、その光の中を抜けた先には。
懐かしい自分の部屋だった。
『うっわぁ・・懐かしい・・・・』
シンプルにベージュとダークブラウンで纏まられた室内は最後に家をでた時のまま。
それを懐かしむように見てまわすと1階が騒がしい事に気付き、部屋を出た。
「何やってんのよ!!それはルカのでしょーが!!」
「ちょっと位いいだろっ!!なぁ、ルカ!!」
「ふふ・・・喧嘩しないで?」
「おばちゃん!!優しすぎだって!!」
「お前ら、少しは静かにしろって!!」
「そうだって。ルカがいたら雷もんだよ」
声を追いかけて室内へ通り抜けた先にいたのは・・・
『みなこ、しんご、れいこ、しょう・・・母さん、父さん、兄さん・・みんな・・』
ルカの家族とルカの悪友とも呼べる友人達が、ルカの遺影を囲んで騒いでいたのだった。
「全く、今日は命日なんだから少しは静かにしたらどうなのよ!」
「いや、そんなしんみりしたのこいつ嫌いだろうが」
「そうよぉ?わいわいしてた方があの子も喜ぶわぁ」
友人たちの言葉におっとりとした母がそう言って笑う。
「あぁ、あいつは元気だけが取柄みたいなもんだったからな」
「ライさん、あいつそれ聞いたら怒りますよ」
「あいつの怒りなんてたかが知れてらぁ」
ライ。ルカが男として姿を変えたときに名乗ったのは、兄の名前だった。
視線の先でふんと鼻で笑う兄に変わらないなと笑みが漏れる。
「あの子が事故にあってから、数年。早いものだ・・」
視線を向けた先にいたのは父。
「こんなに沢山の友達に囲まれてあいつは笑っていたんだな」
ぽつり紡がれた言葉にその場は静まり返る。
「大好きでした。いつもバカな事ばっかしてる癖に、いつもあたし達の心配ばっかで自分の事は二の次で・・あの頃は、何であの子がってあたし達も毎日泣いてたんです」
親友でもあるみなこの言葉にルカは涙を溢す。
本当は生きてるのに・・
違う世界に行った事。
後悔をしてないわけではなかった。
もう2度とこの悪友達と語らう事も、バカをすることも出来ない。
もう2度と喧嘩ができない。
二人並んで父や母に怒られることも出来ない。
年老いていく両親に孫を見せてやることは愚か親孝行さえすることが出来ない。
導かれたとは言え、決断した事とは言え・・・とても、ルカは後悔していた。
せめて、せめてあたしはこの世界では確かに死んでしまったかもしれないが
あっちの世界でこの家族や友人と同じ位大切な人たちができて幸せなのだと伝えたかった。
流す涙はぽたりぽたりと零れて行く。
と、その時。
「でも、ありえないんですけど。あたし、ある夢を見たんですよ」
みなこが口を開く。
「それが不思議なんですけど・・・皆、あの子と親しかった子皆が同じ夢を見たんです」
「それって・・・」
「もしかして、おばちゃん達も見たんじゃないですか?」
白ひげ海賊団の中で目一杯笑ってるルカを・・・・。
「えぇ・・。どこかはわからないけれど・・」
とても大きな白鯨の船で沢山の人に囲まれて笑ってるあの子の夢は見たわ・・。
そう、ルカの両親と兄ライが頷いた。
「やっぱり・・そこにいるかはわからないけど。もしかしたら、あの中で笑って過ごしてるのかなって思ったら。あの子は大丈夫だって思ったら。あたし達はあの子の為にも笑っていようって思ったんです。じゃないと、あの子心配して化けてでそうだし!!」
みなこが少し涙声で言った。
それに弾かれた様にルカは振り返ると男が穏やかに微笑んでいた。
「わたしとリュウドウで勝手に巻き込んでしまったんだ。アフターサービスとは言えないが・・な」
『ありがとう・・・・』
と、その時ライが部屋を後にしたのを見たルカが後を追った。
ライが辿りついたのはルカの部屋。
「俺、バカみてぇだけど・・・夢なんかじゃねぇと思ってんだ・・・」
ライの声が部屋に響く。
「だってよ・・・親父とお袋・・・ワンピース見たことねぇ筈なのによ・・サッチとかマルコだとかエースとか白ひげの容姿も名前も言ったんだぜ??おかしいよな・・お前は、何でかしらねぇけど変な扉くぐって行っちまったんじゃぁねぇかなって思うんだ。お前がいてぇ辛い思いしていなくなったんじゃないなら、俺はそれをしんじてぇんだ。聞こえてるわけ・・ねぇか・・・・」
立ち上がるとライは部屋の扉を開けて一歩廊下へ足を出すと振り返る。
「バカな妹程かわいいんだ。そっちでも楽しくやれよ・・」
パタンと閉まる扉を見つめてルカは涙を流す。
そして隣にいた男に言った。
皆に伝えられる??
あぁ・・構わない。
じゃぁ、伝えてほしい。
そうして、次に光の空間を抜けた先で目を開いた時。
「ルカ?」
『サッチ。エース・・マルコ・・・・ただいま?』
顔を覗きこむ兄と弟が目に涙を浮かべて笑っていた。
堕天使と注がれる愛
(あのね、あたし今凄く幸せだよ!!たっくさん心配かけて悲しませてごめんなさい。あたしは笑ってるから、だから、皆にも笑っててほしい。いつか、いつかまた会えるから、その時までまたね?約束、また出会えたら。きっとその時はまた一緒に笑おう!!愛してくれてありがとう!!大切にしてくれてありがとう!!あたしもあなたたちがとってもとっても大切です!!)
生まれ育った世界に別れを告げて、堕ちた世界に舞い戻る。
愛された想いも。記憶も全て抱えて。
冒険溢れる、陽気な家族の元に今。
堕天使は舞い戻る。
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