Savior-52
「オヤジ、連れて来たよい」
「おめぇが・・・」
マルコが連れて来たローを一蹴し、白ひげはにやりと笑みを浮かべ、船に残っていたイゾウとハルタが薄く笑みを浮かべてローへと視線を向ける。
「ハートの海賊団船長、トラファルガー・ローだ」
ローは白ひげを前にしても臆する事無く見上げる。
「グラララララ・・・、小僧礼を言うぞぉ。ルカの手当てに止まらず息子達の手当てまでしてくれたそうじゃねぇかぁ?」
「俺は医者だ。やるべき事をやったまでだ」
ローの物言いに、船に残っていた船員達は眉をしかめるがルカの治療や家族の手当てまでしてくれたローにあまりぞんざいな言い方はできないのか口を噤む。
何より彼らの敬愛する白ひげ自身がそれを許容してしまっている様子を見れば誰も文句は言えないとわかっているのだろう。
「で?あいつが目覚めるまでは結構かかりそうなのか?」
「・・・いつとは明確には断言できない。それだけ、あいつの体は悲鳴をあげていた。戦闘での深手もあるがそれ以前から大分疲労が溜まっていたみたいだからな・・・心身ともに」
ローの言葉に白ひげはピクリと眉を動かす。
「そりゃぁ・・・そうかもしれなぇなぁ・・・」
ローのその言葉に甲板は静まり返る。
「あのちいせぇ体で・・・俺やエース・・サッチ・・家族の未来を全部背負い込んで今まで1人で戦ってきたんだ・・・。あいつには、とんだ苦労をかけちまった・・・。おめぇは、あいつが異界の旅人だってぇ事は知ってんだろう?」
「あぁ・・、新聞で何度も報じられていたしな・・・。あいつの血縁者もこの世界にきてた事までは大体は把握してる」
その言葉に船上は一気にどよめきだし、マルコも動揺をみせた。
「そうなのかよい?オヤジ」
「・・・・・あぁ。海軍がそれに気付いてるかはまだわからねぇが・・もし把握してねぇとしてもその事に気付くまでそう時間はかからねぇだろうなぁ・・・」
「アマクサリュウドウ。海賊王ゴールド・ロジャーの船にいた先見の麒麟がそうだろう?」
その瞬間、ざわめいていた甲板は又一気に静まり返った。
「あぁ、そうだ。あいつ自身からも俺は祖父だろうと聞いてる」
こっちとあっちの時間軸の関係か親と子程しか歳は離れてないみてぇだがな・・・。
そう言って白ひげは空を見上げた。
「・・・先見屋は生きてんのか?」
「そりゃぁ、俺も知らねぇ・・。俺があいつを最後にみたのは、ロジャーを担いで消える瞬間の記事が最後だ・・・あいつはその後の行方をきっと今も捜してんだろうがな・・・」
「ルカが、あの海賊王や冥王と並ぶと言われた先見の孫・・・」
「まぢかよ・・・」
「そこで1つ提案がある。」
「あぁ?なんだ・・・」
ローが白ひげを見上げ真剣な眼差しで見上げた。
「ペンギン、ちょっと離れてろ。」
ペンギンにそう話すと、ペンギンはそれに従い声の聞こえない距離へと離れる。
それを確認したローは、1度息を吐くと白ひげを見上げて言葉を紡ぎだした。
「俺はこれから新世界に入る。だが、その前に少々やることがあるんでな、暫くあちこちの島を巡る予定でいる。その時にあいつを連れて行きたい。そうすれば、もしかしたらあいつのじいさんの手がかりがつかめるかもしれねぇ。あいつに取っても、俺にとっても戦力が増えるのはありがてぇ、一石二鳥だ。」
そう言ったローを見下ろすと白ひげはそれまで見せなかった覇気を纏う。
「何言ってるのさ。いくらルカの恩人とは言え、そんな事承諾出来るわけない事位わかるでしょ?」
「こればっかりは、ルカの決断によるかもしれないが。俺らも大事な妹とやっと会えたんだ。その大事な妹をそう易々と手放すとでも・・・?」
ハルタとイゾウが睨むわけでもなく・・・だが、その声色には怒りを孕ませローへと言う。
「おめぇら。ちぃっと黙ってろ・・・」
「「オヤジ・・・・」」
そんな彼らを下がらせ、白ひげはローを見下ろす。
その瞳に柄にもなくローは足が竦む感覚を覚える。
「おめぇの言いてぇ事はわかるぜ?俺らが前半の海で動き回るのは確かにあんま良い事ではねぇからなぁ・・・だが、もしもルカがあいつの情報を探してぇとそう言うのなら・・・その時はあいつの判断に任せる。おめぇと行くのも、俺は止めねぇ。あいつが選ぶのならな・・・だが、そうじゃなくおめぇがあいつを連れてくってぇなら・・・その命なくなるってぇ事を覚悟してんだな・・・。今は当人のルカがいねぇ。あいつがいねぇならこの話は終いだ。あいつがこれからどうするか・・・それはあいつが決める事だ・・・」
白ひげが低い声でそう告げた事に、ローは頷く。
「わかった。この話、今は延期してあいつが起きるのを待つとさせて貰う。もし、あいつが俺と来ると言ったなら・・・その時はあいつを俺に任せて貰うぞ」
「グララララ・・・、あいつが行くってぇならなぁ!精々口説いてみりゃぁいいさ!!」
「オヤジっ!!?」
白ひげの言葉にハルタが声を上げる。
「そう騒ぐんじゃねぇよ。これは、あいつが決める事だ。推測するに、あいつの願いは叶った。これから先をどう生きるのか・・・そりゃぁ、俺等といる事を望んでくれりゃぁそれほど嬉しい事はねぇさ。だが、そうじゃねぇなら・・・あいつの為にも俺らは覚悟を決めなきゃいけねぇ・・・それはわかるな?ハルタ・・・」
諭すような白ひげの言葉に、ハルタは顔を俯かせてしまう。
「だからと言って、俺らが何もしないとは言ってねぇがなぁ?」
「え?」
「おめぇを含めて、この船の・・・傘下の全員がルカと離れるなんて頭にねぇ事くれぇわかる。それなら、それを真っ直ぐにあいつが起きたら伝えりゃいい。その上で、あいつがどうするか・・・まずはそこだろう?」
「・・・・離す気はなさそうだな・・・」
「グララララ・・・、だから行っただろう?小僧!勧誘なりなんなりすりゃぁいい!!だが、俺らも手放さずに済む方法を尽くすまで!!誰も手放しにくれてやるなんざ言った覚えはねぇぞ」
にぃっと悪い笑みを浮かべた白ひげにローは溜息をつくと、背を向ける。
「・・・・あいつが目覚めたらすぐに知らせる。」
「あぁ、俺の大事な娘だ。よろしく頼んだぜぇ?小僧」
背を向けて歩きだしたローにそう告げて、白ひげは笑った。
「グララララ・・・、今年のルーキーはおもしれぇ奴が多いじゃねぇか!!酒がうめぇ!!」
そんな白ひげを見て、マルコとハルタ、そしてイゾウが目を合わせて肩を竦める。
そして向けた視線の先ではローがペンギンを伴って船へと戻っていく後姿。
「ありゃぁ、骨が折れるねぃ」
「そうだねぇ・・・」
「ったく、あいつは変な野郎に好かれる星の元に生まれたみたいだねぇ」
溜息混じりの言葉を紡いだイゾウに2人は頷く。
そして向けるのは、今は閉ざされている門。
「クロコダイルも何考えてるのかね〜」
ハルタがポツリ呟くと、マルコがさぁねぃ・・と返し、ローの船へと向かって足を踏み出す。
「マルコ、ジョズ達が戻ったらルカの顔見に行くね!!」
それに片手を上げるとマルコは甲板から飛び立って行った。
「あっ!門が開きだしたね。整備終わったのかな??」
「ん?あぁ、そうみたいだねぇ。にしても、港が小さいとは言ってたが・・・なんだかんだ詰め込めば全船停泊できそうだねぇ・・・こりゃ、暫く賑やかになりそうだ・・・」
「いいじゃねぇか・・・ルカもエースも帰って来た。暫くはゆっくりと休んでも罰はあたらねぇだろう?」
白ひげの言葉にイゾウとハルタが笑う。
外科医の企み
(おぉ!!マルコお帰り!!)
(ルカはどうだよい?)
(まだ、起きないぜ!!だけどさ)
(なんだよい?)
(いや、それがよ?さっきから、百面相してんだよ・・・)
(百面相?具合でも悪いのかねぃ??)
(さっき、あいつ来たから聞いたら・・・)
((只、夢みてるだけだろって))
(・・・・・紛らわしいよい)
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