travel-10
あれから数日。
宿に置いていた荷物と船に積んであった荷物をモビーの自室に運び込み。
今日はとうとう島を出航する。
船員達や隊長達とは相変わらずの距離感を保ちつつ、今は出航準備に足を働かせている。
時たまサッチに構われながら、自分の仕事をする。
そして。
「出航ー!!」
そう声がかかり、船は島から離れる。
あたしにとって、ここが始まりの島。
ここから、あたしの道が続いてる。
風に紛れて、あのワイルドなおっさんの声が聞こえた気がした。
《気張りすぎず。自分の思うままに進むといい》
そんな声に
『そうするよ。きっと、あんたとの約束果たして見せるから…』
小さな声で返した。
刹那笑い声と行ってこい。
そんな声がまた聞こえた。
島影はどんどん遠退き気づけば辺り一面真っ青な海のど真ん中にいた。
「おい。いつまでそうしてるつもりだよい。新入りなら新入りらしくさっさと雑用でもしろ」
相変わらずの声かけに、弱冠腹をたてつつ、掃除に洗濯といった雑用の為に、マルコを総スルーして船内へ向かった。
「チッ。何だよい。あいつは」
「お前がそんなだからじゃねぇの?戦闘員とはいえ、女の子なんだからよぉ!もうちっと、柔らかく接したら俺みたいに懐いてくれんじゃね?」
「別に懐いてなんてほしくねぇよい」
そう言って、マルコも船内へ続いた。
「まーったく素直じゃねぇなぁ」
一先ず、洗濯をしようと船内各部屋を回り洗濯する衣服やシーツ、タオルなどを回収して回っていると、医務室にたどり着いた。
ノックをし、扉を開くとナースと船医が一斉に振り返った。
「あら?あなたが、新しい子?」
『あ、はぁ。アマクサルカです。よろしくお願いします』
ペコリと頭を下げて、挨拶をするとその中の1人が笑みを浮かべた。
「こちらこそ。あたしは、ナースのミシェルよ」
「わしは、船医のジェットだ。よろしくな。で、どうした?怪我でもしたんか?」
『あ、いえ。洗濯するのに洗うもの集めてたんです。ありますか?』
「そうなの?それじゃあ、これを」
そう言って、ミシェルが他のナースに目配せすると篭に入ったシーツやカバー、タオルなどを渡された。
それをさらに担ぐと、また頭を下げ部屋を後にした。
一通り船内の洗うものを集め終わると
たらいと洗剤、洗濯板を持ち甲板へ戻り、もくもくと洗濯を開始した。
さすが1600人と言うべきか…
数人と協力して午前をまるまる洗濯に費やし、やっとの事で洗濯は終わりを迎えた。
昼食を終えると甲板を掃除し、夕方になりやっと一段落しようやく自分の時間がとれた。
船首の白鯨の上に座り海を眺める。
小さな船で一人旅していた時とは比べ物にならない景色。
眺める角度が違うだけで、別物に感じる海。
元の世界で焦がれた海は今目の前にあるのに。
何故だか少し悲しく思った……。
そして、元の世界で大好きだった歌を口ずさんだ。
『〜♪〜〜〜♪』
その時、足音にハッとして歌をやめた。
振り替えると、サッチとイゾウがいた。
「あれっ?やめちまうのか?邪魔しちまったかな。わりぃ」
そう言って顔の前に手をだしたサッチ。
「ありゃ、なんて歌なんだい?聞いた事のない歌でねぇ。気になってきちまったんだよ。邪魔したなら悪いね」
イゾウも謝り、聞いてきた。
『あたしの…好きな歌。』
「お前さんの国の歌かい?」
『そうですね』
「そういえば、お前さんどこの海の出身なんだい?」
『あたし?んー。もう、帰れないから。聞いたとこで意味ないよ』
水平線を眺めながら答えた。
「帰れない?」
イゾウが訝しげに尋ねる。
『そっ。あー、お腹すいちゃった!!サッチさん、夕飯は何ですか?』
話はここでおしまいだと。
話を無理矢理打ちきり、サッチに夕飯の献立を聞く。
と、その時大きな声で見張り台にいた船員が敵襲を告げた。
「6時の方角から敵船です!」
その声とともに船尾近くに砲弾が落ち水飛沫が上がる。
サッチとイゾウが口角を上げて言った。
「俺たちに喧嘩売るたぁ、バカなやつもいたもんだ」
「バカだから、力量も計れず喧嘩売るんだろうねえ」
そんな声を聞きながら、久しぶりの戦闘に胸が踊る。
つくづく感じた。
あたしはこの世界でおいて異端でありながら、この世界に染まり始めている事に。
生きる為に殺す事に、傷つける事に、傷つく事に…なんの戸惑いも浮かばない。
罪を背負い、それでもこの家族の為に戦おう。
信頼や絆なんて、それは後から付いてくる事だ。
今出来る全てをあたしは尽くす。
ただ、それだけ。
『ねぇっ!誰が行くの?あたしに行かせて、オヤジさんっ!』
敵襲の声に甲板に出てきた親父さんに声をかける。
「ルカがいくか?」
『白ひげ海賊団としての初陣だもん!この戦闘で張り切らないで、いつ張り切るの!』
「じゃあ、先陣はお前に任せよう。敵船が近付き次第お前らも乗り込め。こっちにあげんじゃねぇぞ!」
その声に、マルコやサッチ、皆が反対の声をあげるけど。
あたしは笑みを浮かべて言った。
『見くびらないでよ!これでも、一人でこの新世界を旅してきた。あなた達の妹として、認めてもらうために行くんじゃない。皆をオヤジさんを守る為にあたしは行くの』
そう大声をあげ、背を向け。
背中に漆黒の翼を出すと、黒金を握り締めれば光が漏れて形を変える。
身の丈に合わない大きな槍を持ち
敵船へとあたしは飛び立った。
「親父っ…何のつもりだよい。一人で行かせるなんざ!」
「そうだぜ!あいつがどれだけやれるのかわからねぇで」
「グララララ。何も知らねぇな。俺らも、あいつもな。だけどな。あいつは俺らを守るって言ったんだ。信じねぇでどうする。娘が、妹があぁ言ってんだ。尻ぬぐってやりゃいいじゃねぇか。あぁ?」
その言葉に船員達は武器をとり
近付く敵船を今か今かと待ち構える。
マルコは体を不死鳥へかえると、ルカを追い敵船へと向かった。
と、その時。
感じた事のある重苦しい風が届いた。
「ほぅ。ありゃ、覇王色の覇気か…」
「まじで何者だよ…」
「この戦闘が終わったら聞けるかもしんねぇなぁ」
最初の一歩
(嘘だろぃ。どんだけ強いんだよい)
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