「名前」
「…………」
「名前!あんたいい加減にしなさいよ!!?」
「へっ!?」
バンッ!と両手で机を叩いたノジコにわたしの身体は大きく反応した。というかお弁当少し浮いた…。
ずっとボーッと考え事をしていたので、ノジコの話を全然聞いていなかった。
「ずっとそんな思い詰めたような顔して、ご飯が不味くなっちゃうじゃない!」
そう、今はお昼休み。早いのか遅いのか、自分がどんなに悩んでも時間は当たり前に過ぎて行く。
「ごっ、ごめん……!」
慌てて謝るとロビンの手が頭に乗った。それに顔をあげると眉を下げて優しく覗き込むロビンと目が合った。
「昨日から変よ?修学旅行の疲れのようには見えないけれど?」
「えっ…」
「あんたが悩んでるのなんて見てれば分かるの。なぁに?友達のあたし達にも話せないようなこと?」
ノジコもロビンもニッコリ笑っていた、それに気付いたわたしは少し泣きそうになってしまう。
「そんなことないよ、ただ、わたし自身戸惑ってて……、実は…」
昨日の事を全部話した。マルコ先輩に告白されたこと。返事は今度でいいって言われたこと。
「うっそ…」
「まぁ…」
2人共驚いてる、そりゃあそうだ。こんなわたしがマルコ先輩に告白されたなんて言われてもね…。もう妄想が激しすぎる子なんて思われるんじゃないかなってくらいだ。
「いつかするだろうとは思ってたけど、ついに来たかぁーって感じね」
「へ?」
わたしの予想とは裏腹に、2人ともすんなり信じてくれたみたい。ノジコは、なーんだ。みたいな感じで止まってたお箸動かしてるし。
「名前、それエースには言ったの?」
「まだ誰にも言ってないけど…」
「そう…」
「わたし、こんなの初めてで…どうしたらいいのかわかんなくて…」
「一人で悩んでたのね」
両眉を下げたロビンが頭を撫でてくれて、昨日と同様、ロビンの優しさに涙が出そうだった。
「返事、もう決めたの?」
「ううん、まだ…」
「それに悩んでるわけかぁ…」
「うん…」
ノジコも顎に手を当てて考えてくれて、本当にいい友達持ったなぁ。なんてぼんやり思った。
「名前はマルコのことどう思ってるの?」
「どうって…今まで先輩としか考えたことなかったから…」
「じゃあ、好きか嫌いで言うと?」
「そりゃあ好きだよ。先輩優しいし、勉強教えてくれたし、看病もしてくれたし」
「そっか」
そう言うと、ノジコはわたしのお弁当から卵焼きを一つ摘み上げた。あっ!と止めようとするも、あっという間にパクリとノジコに食べられてしまった。
「まぁ、名前にとって、マルコは卵焼きになれるのかってことね」
「はい?」
突然の例え話に、卵焼きを追っていたわたしは呆けた返事が出てしまった。
「例えば、ここに入ってるからあげあるじゃない?」
「うん」
「からあげは、日替わりで入ってない日があってもいいけど、卵焼きは毎日入ってないと嫌でしょ?」
「うん、そうだね」
それよ!とノジコは指を立てた。ノジコの言っていることがいまいち理解できていないわたしは首を傾げた。
「マルコは名前の中で毎日いないといけない存在になる可能性はあるのかってこと!」
「うん…?」
「ノジコ、名前には少し難しいみたい」
クスリとロビンが笑い、ノジコもそれもそうね。と話を終わらせてしまった。わたし自身は結局わからず終いだ。
「あたしとしてはマルコと付き合ってみるのもアリだと思うけど」
ね?と片眉をあげて言うノジコにわたしの眉は寄った。
「でも、そんな中途半端な気持ちだと、マルコ先輩に申し訳ないじゃん……」
「でも、マルコの事嫌いじゃないんでしょ?」
「うん」
「これからもっと好きになれるとは思う?」
「…思う…」
「だったら良いじゃない」
今、名前に中途半端は申し訳ないって理由でフられて、この後の卵焼きになれる可能性を消される方がかわいそうよ。
ノジコがこう言って、少し納得してしまった自分がいる。
後は自分で考えるしかないのかな…。
「でもそうなると、あいつも動き出すわけか…ふふっ!面白くなりそうね!」
「あいつ…?」
誰のことなのか聞いたけれど、教えてはくれなかった。
「名前、あまり考えすぎないでね、あなたは笑ってるほうが素敵よ」
「ロビン……、ありがとう!」
ノジコとロビンに聞いてもらってかなり気持ちの整理ができてきた…。
本日午後最後の授業はHR、気怠げな青雉がいつものように入って来て、えー。と言葉を発した。
「本当ならこの時間文化祭の準備するんだけど……委員長、写真は?」
「あー、今、現像中」
「だよね、よってすることがないんだよねー」
何もすることないし、席替えでもする?
この青雉の気まぐれの一言から席替えをすることになった。さらに、視力の悪い人を前にしてあげるというサービスまであり、青雉にもこんな時があるのかと、わたしは驚いた。
結局、前の席を希望したのはロビン1人だけ、きっと授業を聞きやすいようにだと思う。
ロビンは教卓の前の左隣を選択し、他の人たちはくじを引いていくことになった。
「この席ともお別れだ」
「次は後ろの席がいいなー」
「エース前でも寝るじゃん」
「うっせェ」
「次、エースだよ」
「おぅ」
くじの順番が回ってきたわたしたちは席を立ち、教卓に急いだ。引いた紙を手の中に握りしめ、最前列以外…最前列以外…。と祈りを込める。
四つ折りになっている紙を開くと……
40番
すぐに黒板に書かれている座席表と見比べる。
「あっ、後ろだ!」
最後列、それに窓際!なんという最高の席なんだろう。一生分の運を使い果たした気分だ。
それから、顔面を蒼白にしているエースの紙を覗き込んだ。
「うわ…」
エースの番号は15番
「あははっ!教卓の前!」
教卓の前、そう1番前のど真ん中、その席は先生の目が常に光る、高校生が一番嫌がる席である。
「はーい、じゃあ移動して〜」
と青雉の声でみんな鞄を持ち、ぞろぞろと動き出す。
「じゃあな……」
「うっ、うん」
かなり肩を落として前の席へ向かうエースに苦笑いを送った。
わたしが新しい席に付くと、なんとその隣にノジコがやって来た。
「あたしここよ!」
「うそ!また隣だぁ!」
今日のわたしは本当に運が良い。
これから楽しくなりそうだ…!
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