ドンドンドンドンドン!

「んー…」

ドンドンドンッ!!

「マールッコちゃーん!」

「んんっ…!?」


大きな音と声に驚いて顔を上げると、肩から何かが落ちた。


「あ…」


目の前にはマルコ先輩の眠るベッドで、昨日あのまま寝ちゃったんだ。と納得。

そして、肩から落ちたものを拾おうとしたけど、それは使った覚えのないブランケット。

もしかして、マルコ先輩が掛けてくれたのかな。

マルコ先輩の顔を覗くと、昨日より顔色もよく、ぐっすりと眠っていた。


ドンドンドン!ドンドンドン!


先程よりも大きなノック音にびっくりした。こんな朝早くから誰よ!マルコ先輩が起きちゃうじゃない!
慌てて部屋から出た。


「はーい!今行くから静かにしてー!!」


と、言いつつも、自分もドタドタと音を立てて扉まで急いた。


ガチャ!


「よー!マルコ!…え?名前?」


扉を開けその人物を確認すると、そこには目を見開いて驚いているサッチ先輩がいた。


「え?なんでこんな朝早くに名前がマルコの部屋にいんの?…しかも!なんでマルコの服ゥ!?…お前らまさか……!!」


ハッと手で口を抑えるサッチ先輩にわたしは慌てて顔の前で手を振り否定する。


「ち、違いますよ!変な勘違いしないでください!」


わたしの全否定に片眉を上げたサッチ先輩は未だ疑うような視線を向けてくる。


「じゃあなんで、こんな朝早くに名前がマルコの服を着てこの部屋にいるわけよ?」
「マルコ先輩、熱出て寝込んじゃったから看病してたんです!服は借りただけです!お願いだから静かにして下さい!」


少し睨みながら言うとサッチ先輩は口をあんぐりと開け固まっていた。


「マルコが、熱…?あのマルコが?」


サッチ先輩は瞬きを繰り返し、何度も同じ事を言う。

そんなに驚くことなのでしょうか、マルコ先輩も人間、風邪の一つや二つひくでしょ。

するとサッチ先輩は急に笑いだした。


「ひゃっはっはっはっ!嘘だろ?マルコが?熱?ははっ!だっせー!」
「静かにして下さい!」
「ふっ…わ、わりィ…」


それでも笑いを抑えるのに必死なサッチ先輩にジトッと冷めた視線を送った。


「で?そんなに悪いの?」
「いえ…ただの風邪だと思うんで暫く休めば大丈夫だと思います。昨日の夜は熱も高かったんですけど、今日は顔色もいいですし」
「病院連れてかなくて大丈夫か?」
「本当はそうしたい所なんですけど、たぶん、マルコ先輩嫌がりますよ」
「だよな」


わたしとサッチは顔を合わせて苦笑いをした。


「お前、泊まって大丈夫だったのか?エースが言ってたが、今日からW7に行くんじゃ……」
「W7は一日遅らせましたから大丈夫ですっ」
「マルコのやつ至れり尽くせりだなぁ」

サッチ先輩は苦笑いをこぼす。

「ま、看病はおれに任せろよ、お前も出発前に身体休めたいだろ?」
「そうですね…。じゃあお願いします」


ペコリとお辞儀をするわたしににサッチ先輩も、こちらこそありがとな。と頭下げてくれた。


「じゃあわたし着替えてきます!あ、熱測って、まだ高かったら本人がなんと言おうと休ませて下さいね!」
「任せろ!ベッドに縛りつけてやる!じゃ、おれはちょいとマルコの寝顔拝見するかね」


とサッチ先輩がマルコ先輩の部屋へ入って行くのを呆れ顔で見送り、わたしは洗面所へ行き着替えを済ませた。


「ぷっ…ぐふっ…ふふっ…ふはっ…」


洗面所を出るとマルコ先輩の部屋から明らかなサッチ先輩の笑い声が聞こえて来た。ので、そちらに向かうと…

サッチ先輩がひーひー言いながらお腹を抱えて笑いを耐えていた。


「もう…どうしたんですか?」
「マ…マルコが…ははっ…ひ…冷えピタ…」


笑いの耐えすぎで言葉が途切れ途切れになるサッチ先輩にわたしは呆れつつも、これには同意出来るとちょっと笑った。


「じゃあわたし帰ります、あとよろしくお願いします!」
「おぅ、任せとけっ!」


お互いに敬礼をしてわたしはマルコ先輩の部屋を出た。











「グカァーグォー」
「ん…」


大きな音で目が覚めた。

まだ視界がはっきりしないが、昨日の頭痛は引いてかなりスッキリしている。

顔を傾け自分の右側を見ると名前が椅子に座り、ベッドにうつ伏せて眠っていた。

しかし…この子こんなにすごいイビキするんだねェ…。若干口角が上がり、手を伸ばして頭を撫でてやる。


「…ん?」


なんだこの変な髪質…カチカチじゃねェか。
おれが首を傾げたとほぼ同時に、名前は身体を起こし大きな欠伸をした。


「ふわあぁぁぁぁあ!んぉ?マルコ何してんだ?おれの頭なんか撫でて」
「…」
「グヘッ!」


取り敢えず殴っておいた。


「なんでいきなり殴るんだよ!」
「紛らわしいことすんなよい!」
「おれ何もしてねェじゃねェか!」
「なんでお前がおれの部屋にいるんだよい!」


夜中気が付いた時は確かに名前がいたはずだ。いつのまにこんなフランスパンと入れ替わっちまったんだ…!


「名前と代わってお前の看病してんだろうが!」


看病って…お前も寝てたろい…。


「名前は?」
「帰った」


そうか…名前はもう帰ったのか…。ちゃんと礼も言えてねェのに…。


「分かったよい、もう大丈夫だから帰れ」


おれがそう言うとサッチは椅子に座り直しながらニヤリと笑い言った。


「そういう訳にも行かねェな、おれァ名前から頼まれてんだ」
「もう治った、お前の看病なんていらねェよい」
「いんや、名前からの命令でね、ちょっとでも熱があったら寝かせろって」


名前がそんなことを…、だがサッチに任せるというのは明らかに間違えてる気がする…。


「熱なんてねェよい」
「名前とおれを間違える時点でおかしいだろ、寝てろ」
「チッ…」


確かにサッチと名前を間違えるなんざどうかしてる。ここは大人しく寝ておくか…。


「あっ、待て待て、寝る前に忘れ物!」
「なんだよい」
「ひ・え・ピ・タ・!…ぐふぇ!」


もう一発サッチの顔面を殴って布団に入った。


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