「名前、今日も白髭のトコ?」


授業が終わり荷物を整理していたところノジコに話しかけられた。


「うん、これから行ってくる」
「毎日よくやるわね。今日は何?」
「今日は…、ハルタ先輩の英語とマルコ先輩の数学かな」
「まるで塾ね」
「あははっ、わたしもそう思う」


みんなそれぞれ得意教科がズバ抜けて凄いし、白髭塾なんて開いちゃっても良いと思う。きっと希望する生徒がたくさんいるよ。


「ま、頑張んなさい。とにかく補習は絶対に避けてね」


そりゃあ、出来れば補習なんて嫌だけど、何かあったのかな?


「夏休み3人でどこか出掛けない?」
「えっ、いく!」
「でしょ?補習は夏休みなんだから、遊べなくなるじゃない!」
「ほんとだ!頑張ります!!」


なんだかんだで3人で遊んだことなかったしなぁ…!うわぁすっごく楽しみ!!
よし!夏休み前の最後の砦、期末テストを倒さなければ!!



「おーい、名前ちゃ〜ん」


と思った所で青雉に呼ばれた。いつもなら嫌だけど、今は気分が良いので笑顔で応えてあげる。


「はーい」
「何でそんな笑顔なの?気持ち悪ッ!」
「気持ち悪いって何よ!それ生徒に言っちゃダメでしょ!」


だってほんとに…。とか言い出す青雉の手の甲を抓っておいた。


「すまんすまん。 で、お前体育委員だろ?スモーカーが呼んでたぞ」


手の甲を摩りながら言う青雉にわたしは、はい?と首を傾げた。


「なぜ今頃体育委員の呼び出しが?」


だって体育祭終わったし…、1学期の行事なんて後は期末試験くらい…。そんな風に呟けば目の前の青雉はあーらら。と肩を竦めた。


「お前完全に水泳大会の事忘れてるでしょ」
「あ!あれも体育委員の仕事かぁ…、くそっ…!」
「今くそっ!って言ったよね」
「あー、スモーカーどこにいるの?」
「職員室だな、たぶん」
「りょーかい…」


あー、折角ノジコのお誘いで盛り上がって、勉強やる気になったのになぁ。さっきまでのテンションは消え去り、わたしは少し肩落としながら職員室を目指した。

水泳大会なんて面倒くさいなぁ…。はぁ。
なんて心の中で呟いていたけれど、こんなゆっくりとしていられないことに気が付いた。
遅くなるとハルタ先輩を待たせてしまう。


「急がなきゃ」


スピードを上げて、階段を駆け上がっていく。その階段を上りきった時、おい。と後ろと言うか下から声をかけられた。
振り返って下を見るとそこにいたのは生徒会のメンバーの皆さんで、わたしに声を掛けたのは会長であるロブ・ルッチさんだった。ジトッとこちらを見る目に冷や汗が出る。


「すいませんでした!」


わたしは走っていたことを注意されるのだと思い。思うが早いか、高速で頭を下げた。何の反応もないことを不思議に思い、顔を上げるとみなさんはポカンと口を開けてわたしを見ていた。


「クスッ、何も謝らなくてもいいのよ。 あなたこれ落としたんじゃない?」
「え?」



カリファさんが指差したのはルッチさんの手にあるリップクリーム。それにはとても見覚えがあり、制服のポケットを探るといつもあるものがなかった。


「あっ、すっすみません!ありがとうございます!」


返してもらおうと急いで階段を降りようとした時やってしまった。階段の滑り止めでつまづいてしまったのだ。

下にはルッチさん達がいるのに…!

わたしは次に来るであろう衝撃に備えて、思いっきり目を瞑った。

しかし、思っていたよりも衝撃は少なかった。

ルッチさんがわたしを抱き止め頭など色々庇ってくれたのだ。そして2人でクルクルと階段の下まで落ちた。のだけど…
わたしがルッチさんの上に乗っかっちゃってる事は分かる。でも、この唇の違和感は何…?

ゆっくり目を開けると視界いっぱいにルッチさんの顔があった。


「「!!?」」

「あら」
「ルッチが女の子とチューしてるのだ〜、チャパパパパッ」


えっ…!!!

慌てて起き上がり、全力で頭を下げた。


「す、すみませんッ!!」
「いや…」
「しッ、失礼しますッ!!」

わたしは未だ上半身しか起こしていないルッチ先輩に手を貸すこともせず、真っ赤になっている顔を抑え猛ダッシュでスモーカーのいる職員室へ向かった。





うそ…でしょ…
ファーストキス…だったのに…。

スモーカーの所へ行ってからも、さっきの事ばかりが頭にあり、少し下を向いて考えるようにして歩いていると、アタマにドンッと衝撃がきた。きっと誰かにぶつかってしまったのだろう。相手が誰なのかをも確認する余裕もなく、ただすみません。とだけ呟いた。


「てめェどこ見て歩いてんだ!…って名前?」
「え…?」


不意に呼ばれた名前に顔を上げると、そこにはとても懐かしい顔があり思わず飛びついてしまった。


「ペローナッ!」
「うぇッ!?てっ、てめェ一体どうしたんだよ?」


ペローナは1年の時同じクラスだった女の子、口調は悪いけれど可愛いもの好きでとても仲が良かった。


「うぇ〜ん!ペローナぁ〜!!」
「い、いきなりなんなんだ!取り敢えず、こっち来やがれ」


連れて来られたのはペローナが使用している剣道部のマネージャー用の部屋、まぁ、剣道部のマネージャーは彼女1人だけだから、ペローナ好みの可愛いもので埋め尽くされているんだけど、その数が…、1年のときに来たときよりも増えてる気が…。

ペローナはわたしを椅子に座らせると自分も向かいに座った。


「クマシー紅茶2つ!」
「はい、ペロー…「喋るな!」

「相変わらずクマシーに厳しいね…」
「いいんだ、あいつは喋ったら可愛くない! で?何があったんだ」


ペローナの探るような視線を受け、わたしは正直に事の全てを話した。


「はあぁぁ!?お前あの鳩野郎とキスしたのかぁ!?」
「キスっていっても事故だけど…」


既に大きなまん丸な目がこれでもかと開かれた。と同時にクマシーが紅茶を持って来てくれて、それをすすった。


「そっかぁ、名前のファーストキスは鳩野郎かぁー…、あたしはてっきり火拳だと思ってたんだがな」
「なんでエースが出てくんの…」
「火拳は男前だぞ! って、お前もいつまで顔赤くしてるつもりだよ、やっちまったもんはしょうがねェだろ」


うん、わかってる。やっちゃったもんはしょうがないよね…。でも、そんなに早く立ち直れないよー!
だってファーストキスだよ!?
人生で一度きりのファーストキスなのに…!!!



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