自分達のクラスの準備が済むと、タイミング良く放送がかかった。


「ゴホンッ!えー、本日は文化祭だ。楽しむのは良いが羽目を外し過ぎないように、一般のお客様も来ることを忘れるな。店番は前半、後半交替制とし、自分の仕事はしっかりこなすこと…」


今日の放送はガープじゃなくセンゴクのようで長々と色々な説明が入る。みんなめんどくさそうにはしているが、一応我が担任赤犬の前なので、静かに放送に耳を傾けている。


「…では以上で注意事項は終了する。えー、まず前半の生徒、店番につくように…しっかり、楽しみなさい。」


キッと音を立て放送が切れると、途端に教室内は騒がしくなり、店番の奴らは仕事にかかりその他の奴らは早速ガヤガヤと他店を回りに出て行ってしまった。
そんな様子を見て、おれもすぐに名前の待つ、2Aの教室へ向かった。


行き道に通った教室ではもうすでに客で溢れているところもあったが、2A教室は人がまばらで、名前も教卓の前で友人達と話しているようだった。その中の友人の一人がおれがきたことを伝えてくれたらしく、名前は恥ずかしそうにしながらもこちらへとやって来た。


「あ…、じゃあ行きましょうか」


友人達が冷やかしの目で見ているのが恥かしいのか早々にここを立ち去ろうとする名前。おれがここの展示見てからにしようと言えば、えぇ〜。と嫌そうに声を上げた。


「そんなたいしたものじゃないですよ〜!早く行きましょうよ〜」
「いいじゃねェか、ちょっとくらい」


名前の制止を振り切り 教室へ足を踏み入れ展示されている写真を順に見ていく。


「結構うまいもんだな…」
「でしょ!おれが撮ったんすよ!」
「ッ!?」


お前誰だ…。
突然横に来るもんだから名前かと思っちまったじゃねェか。


「あ、おれこのクラスの委員長っす」
「そうか、名前は?」
「あそこっす」


こいつの指さす方へ視線を向ければ、名前はさっき話していた友人たちに囲まれ、冷やかされているようだった。

それを見て少し口角を上げ、また写真に視線を戻す。その時目についた写真。


「これ…」
「それいいでしょ!」


その写真には名前とエース、2人が写っていて、エースは焼いた肉を持ち上げて名前はうちわを持って、楽しそうな雰囲気がすげぇ伝わってくる。

おれといる時、名前はこんな風には笑わねぇ…。

名前自身気付いていないだろうが、本人は相当エースに気を許してるんだと思う。本当に自然体に笑う。おれではこの笑顔は引き出せない。やっぱりおれと付き合うことで彼女に無理をさせている、そう思わずにはいられなかった。








「マルコ先輩のお店って何でしたっけ?」


さっき買ったわたあめを食べながら隣を歩くマルコ先輩に尋ねる。

ここ最近、エースのことで、わたし自身後ろめたい気持ちがあったせいでマルコ先輩ときちんと向き合えていなかった。だから今日、久しぶりに2人で会うことに緊張していたけれど、先輩はいたっていつも通りで、わたしもいつも通りに振舞えてると思う。


「言ってなかったか?チョコバナナだよい」
「えっ!チョコバナナ…ぷっ」


さらりと答えた先輩に思わずわたしは吹き出した。
なんか、悪意が感じられるんですけど……!


「ちなみに提案者は赤犬だよい」
「うそ!!」


赤犬…、チョコバナナって単語知ってるんだ…。


「マルコ先輩も作るの?」


マルコ先輩がバナナにチョコをつけてる姿なんて全く想像できないんだけど…。


「いや、おれは店の前で立ってるだけでいいってよい」
「人集めかぁ…」
「イゾウも前半立ちっぱなしだと」
「あー。うん、なんかわかる気がする」


イゾウ先輩お綺麗だもん、わたしだってイゾウ先輩が立ってる店があったら入っちゃうよ。
そんなことを悶々と考えていたら、マルコ先輩が突然立ち止まった。


「なんだあれ」
「え?」


マルコ先輩の視線の先を見ると、そこにものすごい人だかりを発見。って女子ばっかだけど。何かあったのかな?


「名前ーー!!!」


不思議に思いながらも通すぎようとすると、人だかりの中からわたしの名前を呼ぶ声がした。きっと同名の人だろうと思ったんだけど、なんだか聞き覚えのある声。
立ち止まってもう一度見てみるけれど人だかりのせいでわたしの身長じゃ全く見えない…。マルコ先輩はその長身のおかげでその人を見つけたみたいだけど、わたしじゃ飛び跳ねてるのがおかしいのかそれが誰なのか教えてくれなかった。


「悪いな、そこ通してくれるか?」
「「「はーい」」」


さっきの声が聞こえると同時に、人だかりに道が開けた。
その開けた道から見えた姿にわたしは驚いて、名前を叫んだ。


「サボ!!」
「よっ!おぉっ!?マルコさん久しぶりっすね!!」
「おぅ!お前の人気は相変わらずだな」
「それはマルコさんもだろ」


2人とも中学はわたしと同じ東海中なので、面識はある。
この2人が話してるなんて滅多に見られるものじゃないからと、またギャラリーが集まってきて、2人はお互いに苦笑いを溢していた。

丁度その時、前半部終了の放送が鳴った。


「後半担当の生徒は自分の仕事についてください」

「おれ行かねェと。名前ここで大丈夫かよい?」
「うん、頑張ってね」


マルコ先輩はニコリと微笑むと、わたしの頭をポンポンと軽く叩き、教室に戻って行ってしまった。
それを見ていたサボがなぜか不思議そうに見つめていた。


「ほんとだったんだな…」
「え?」
「いや。あ、ルフィの舞台見たいんだけど体育館ってどこだ?」
「あ、それわたしも観たいんだ!」


今朝会ったルフィくんの舞台はぜひ観たいと思っていたところだ。
だけど、クラスメイト達と後半部を一緒に回る約束をしていた、女子ばっかりだけど大丈夫かと伝えれば、一人だと迷うから助かるとサボは返事をしてくれた。


わたしはサボを連れ、一度教室に戻った。…が、ついてすぐにクラスメイト達に連行された。


「名前ッ!あのイケメン誰!?」
「あ、えっと、同じ中学だったサボなんだけど、一緒に回ってもいいかな?」
「あれがサボくん!?やばい、イケメンすぎる…」
「え!?ちょ、ちょっと!大丈夫!?」


サボを見て、フラフラと崩れる友人を慌てて支えた。
当のサボはというと、既にクラスメイトたちに囲まれていて、人の良い笑顔を振りまいていた。


「サボ!みんな大丈夫だって、一緒に行こう!」
「ほんとか!みなさん、お世話になります」


ニッコリ微笑んでお辞儀をしたサボにみんなもうメロメロ。サボを囲って歩き出したみんなの後ろをロビンと並びながらわたしも歩く。ノジコは文化委員の集まりがあるみたいで今は来られないみたい。


「彼、ずいぶん人気なのね」
「まぁ、顔があれだもん」


サボとすれ違った人の中には振り返って二度見する人もいるくらいだし、もしこの学校に来ていたらランキングに入ってたことは間違いないよね〜。

いやぁ…イケメンって凄いわ…。


「ルフィの舞台発表見に来たんでしょ?さすが、いいお兄さんね」
「エースといい、サボといい、あの2人はルフィくんのこと溺愛してるからね…」


そう言えば、エースは今日来てるのかな…。昨日の準備には顔を出してたし、今日も来ているはずなんだけど、一度も見ていない。

折角の文化祭なのに、何してるんだろう……。






体育館に到着すると舞台にはライトが当てられていて、どこかのクラスが発表をしていたのだけど、それが終わると、次にルフィくんのクラスの麦わら劇場が始まった。

可愛い…!!ルフィくんもナミちゃんもチョッパーくんもなんて可愛いんだろう…!!!


「さすがおれの弟、ダントツだぜ…!!」


サボなんて携帯で写真まで撮っていて、ロビンと目を合わせて笑った。

全ての舞台発表が終わると、この後は文化祭のメインである“美女・男前コンテスト”の表彰がこの体育館で行われる。なので、わたしたちはこのままここにいることになった。

体育館はコンテストの結果発表を見にやって来たひとでたちまちいっぱいになり、みんな今か今かと舞台に注目している。

その時、息を切らしたノジコがこちらへやって来た。


「名前!ロビン!こんなとこにいた!早く来て!」
「え?」


これから結果発表なのになんで!?と言うわたしの訴えは体育館の喧騒の中に消え、腕を掴まれノジコに引っ張られるように舞台の裏に来てしまった。


「さ!これに着替えて!」


腕を解放されたかと思うと、目の前に突き付けられたのは真っ赤なドレス。
すっごく素敵なんだけど…


「なんで!?」


突然こんなところに連れてこられてそんなこと言われれば誰だってこんな反応になると思う。だけど、ノジコはあのね。と乱れた息を整えながら、だけど興奮気味に話し始めた。


「なんと!!あんたが美女TOP5に入ってたのよ!まだ何位かは言えないけど、舞台で一言言ってもらわなくちゃなんないの!だから早く着替えて!」

「え…?えぇぇぇぇーーー!?」





着替え済ませると、舞台裏に作られた簡易なメイク室に通される。
中にはハンコック先輩、それにロビンやナミちゃんもいて、見慣れた2人になんだか安心した。
大きな鏡の前に座ると、ボンちゃんと名乗るバレリーナのような女性…、いや男性がわたしの後ろに立った。


「がっはっはっはっ!あちしがあんたのこと可愛くしてあ・げ・る・!」
「お、お願いします…」


この感じなんだかすごいデジャヴだ…。あ、そうだ。昨日会った、イワさんの言ってた新人類ってやつなのかも…。


一抹の不安を感じながらも、目ェ閉じて〜。と言うボンちゃんの言葉通り目を閉じた。するとパフパフと顔を叩かれる感覚に始まり、ラインを引かれたりととても手際良くメイクをしていってくれた。


「これでドゥー?」


10分も経たないうちにそう言われ、わたしは目を開いた。


「うわぁ…!!」


凄い…わたしじゃないみたい…。
目はいつもの倍の大きさのように見えるし、だからといってケバいとも感じない。本当に凄い…!!
わたしが鏡に見入っていると、ボンちゃんが納得のいかない感じて話し出した。


「あちしとしてはー、リップがもう少し…何か良い感じの持ってなーい?」
「あ…グロスなら、制服に…」


魚人島でエースに買ってもらったピンク色のグロスなら、スカートのポケットにずっと入れっぱなしだ。肌に合っているのか唇も荒れないし、色も落ち着いていてわたし自身とても気に入っている。そのグロスをボンちゃんに見せると結構好感触で、すぐに塗ってくれた。


「いいじゃなぁーい!!あちしのメイクの仕上げにぴったりねー!!」
「ありがとう…!」


次は髪だと、手際良くハーフアップにしてくれて、下の髪はゆるく巻いてくれた。

鏡を見ると本当、あんた誰?状態。

わたしもここまで化けられるんだなぁ…としみじみ思った。

感心していると、ルフィー!!とハンコック先輩の大きな声が聞こえた。


「ルフィはおらぬか!この綺麗に着飾った姿、今すぐにでもそなたに…」

「ちょっとあんたー!わたしの髪に触れたら一万ベリーよ!」

「ヘアアイロン耳に当てたらあなたの関節全て折るわよ」


ロビン…!こわいよ!!!
そしてハンコック先輩の前には何故かルフィくんが登場。なぜ?


「シッシッシッ!ハンコック!」
「ルッフィ〜!!はぁ〜ん」


ばたりと倒れてしまったハンコック先輩に何人かが慌てて駆け寄る。

するとルフィくんはボンちゃんに姿を変えてくるくると回り出した。


「がっはっはーっ!あちしよー!」


なんだこれ。



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